最近テレビで見たのですが、「セレノネイン」という物質を多く含むマグロを継続して食べることで、生活習慣病や老化の予防につながることを検証しようと、研究を始めたそうです。
イワシやサバなどの青魚には、血液がサラサラになったり、脳の活性化に役立つDHAが含まれているなど健康的なイメージがついていると思います。
そこで、セレノネインも有名になれば、マグロの消費拡大につながるのではないかと思います!
セレノネインはマグロ以外の魚にも含まれていると聞きましたが、魚を販売する際の宣伝として使っても問題ないのでしょうか?
(神奈川県・中沢清美/仮名・40代)
吉江由美子
東洋大学 食環境科学部食環境科学科 教授
「健康になると」と言うのは難しいです。セレノネインの効果や摂取量を理解しましょう
結論から言うと、マグロにセレノネインが多く含まれているので、マグロを食べれば健康になると言ってしまうのは難があります。
「マグロ刺身を1人前よりもやや多め(1.5人前程度)に摂取することで、推奨される1日のセレン摂取量を、主にセレノネインとして得られ、この物質は抗酸化性も示す」というのが事実です。
もう少し詳しく説明いたします。
セレノネインという成分は、ヒトにとって必須微量元素であるセレンを含む有機化合物です。
セレンは欠乏すると心筋症や冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞、高血圧などのほか、さまざまな癌の発生率が上昇すると報告されています。
その一方で過剰に摂取すると、胃腸や神経の障害などのほか、それらの複合作用がもたらす症状によって、死亡する例もある毒性をあわせ持った元素です。
セレンの過剰摂取による有毒性に関してはまだ研究途上ですが、私たちの食生活でセレノネインを過剰摂取することはまずないことから、セレノネインに関しては有用な効果が示されることのほうが多いといえます。
セレンの1日あたりの摂取推奨量は100-200マイクログラムで、過剰摂取とされる上限値は400マイクログラムとされています。
日本人の1日あたりのセレンの平均摂取量は約100マイクログラムで、魚類から最も多く摂取しています。
セレノネインは魚介類に多く含まれる有機セレン化合物ですが、抗酸化性を示すことから、生活習慣病が予防できると期待されています。
たとえば、培養細胞に酸化ストレスを与えた状態でセレノネインを加えると、酸化ストレスから培養細胞を守る効果がセレノネインの濃度に影響を受ける形で変化することが示されたという報告もあります。
セレノネインが含んでいるセレンが構造的にどこに多く存在するかを調べた結果も報告されています。
マグロの赤血球に52㎎/㎏、血合肉に6㎎/㎏ありますが、私たちは日常の食生活でマグロの赤血球を多く含む血液や血合肉だけを狙って摂取することはありません。
この血液や血合肉は、加工残渣からセレノネインを抽出・精製する原料として使われています。
通常の食品として私たちの口に入る形状の場合、マグロ類筋肉(刺身)には0.1-1.3㎎/㎏(10-130µ/100g)のセレンが、主にセレノネインの形で含まれています。
セレンを推奨量分(100-200マイクログラム)マグロから摂取するには、刺身定食のマグロ1人前が約70gほどなので、1.5人前から3人前分を食べなければならないことになります。
セレノネインの抗酸化効果については、以上のエビデンスをしっかりと理解した上で、マグロをはじめ魚食普及を行う際の宣伝文句の一つとして活用してみたらいかがでしょうか。