長崎県でマグロの養殖をしている者です。
私たちは幼魚であるヨコワマグロを捕獲し、その後しばらく養殖いけすで育てた後、別の養殖業者へと出荷しています。
そこで、マグロの捕獲方法についてお尋ねしたいことがあります。
現在、私たちが行っているマグロの捕獲はまき網の要領で、まず魚群を探します。
魚群が見つかったら、2隻の網船と1隻の運搬(活魚)船で捕獲にかかります。
2隻の網船で網を張り、運搬船に向かって魚群を追い込んでいきます。
そして、運搬船の横腹に魚倉への入り口となる開口部がありますので、その中に追い込んで捕獲します。
この時、暗いところから明るいところに行くというマグロの習性を利用し、網を張っている側の海面を簡易的にシートで覆うなどして暗くし、魚群が自然と明るい方(運搬船)に進んでいくようにして捕獲します。
しかし、マグロが暗い環境に慣れてしまうのか、ぐるぐると旋回したり、一度運搬船に入っていた魚が戻ってきてしまったりと、効率的に捕獲できないことがあります。
うまく追い込めないときは、半日くらい格闘していることもあります。
おかげで勤務時間も延びてしまい、たびたび残業となり、労働環境としてもよくありません。
もっと効率的にマグロを追い込み、捕獲する方法はないでしょうか。
(長崎県・鈴木勝彦さん/仮名・40代)
有元貴文
東京海洋大学 名誉教授
光やエサなどいくつかの刺激と網地構造や使い方の工夫を組み合わせ、揚網作業でそっと流し込みましょう
詳細がわからないので、魚群行動制御の一般論から説明を試みます。
行動を制御するための技術要素(魚の自由を奪うための基本的な技術)は、集めるための「誘引刺激」、脅かして追いやるため「威嚇刺激」、移動経路を遮るための「遮断技術」、逃げないように確保する「陥穽(かんせい)技術」の4つを組み合わせて成立します。
これらは漁獲するため、または漁獲しやすくするために使われる技術です。
最初の二つ、誘引と威嚇は相反する技術で、同じ光の刺激でも「集めるため」と「追いやるため」とでは光の質や量が変わってくるように、さまざまな方法が使われています。
例えば「集める」ためには集魚灯の光源のように、電球ひとつでも効果があります。
しかし「追い散らす」のであれば刺激源がひとつでも機能しますが、「追い集める」ためには、刺激源が連なって配置されることが必要なのです。
そして、移動する群れの動きを遮断するために網地が使われるわけですが、魚が抜けられるような大きな目合いの網地でも、感覚的に遮断することができます。
これを応用し、光や音響、気泡で幕を作って遮断効果を狙った実験が行われてきました。
しかし、狭いところまで追い込まれた条件では、最後に突破されて逃げてしまうのが通常です。そこで、制御の最終段階では狭いところに囲い込むための網地構造が必要になります。
このような誘引や威嚇による制御を考える場合、人為的な刺激だけで100パーセント確実にこうなるという効果を期待するのは無理です。
遮断技術と陥穽技術を組み合わせ、その際に網地をどのように使うかが鍵となるはずです。以上が行動制御についての一般論となります。
次に、質問にあった具体的な内容にお答えしていきます。
活魚船への追い込みについては、狭いところに追い込むことになりますので、魚群は嫌がりますし、途中から戻ってきたり、あるいはパニックに陥って群れがバラバラになったりします。
魚群が自発的かつスムーズに移動してくれるのが理想ですが、そのための工夫として、定置網では運動場から箱網へと続く登り網を、じょうご状(入り口が広く、出口が細くすぼまった通路になっている形)の構造にする方法があります。
光の利用を試されているとのことですが、人為的な刺激を使う場合は「こうすればこうなる」という100パーセントの定型的な行動を期待するのは難しいと考えてください。
「入り口に誘導できる網地の構造」「光やエサのような誘引と威嚇のいくつかの刺激」を組み合わせるといった事前の前提条件を準備した上で、揚網作業でそっと流し込むことに尽きるかと思います。
いったんは中に入ってくれた群れが戻ってしまうのは、魚群が壁や網に沿って移動している時に入り口に出会うと、そこが逃げ口になってしまうためです。
これも定置箱網の登り網の構造を応用し、網に沿って移動させることで、逃げ口から離れるような「返し」の構造で遠去かる方向に誘導することが可能です。
なお、光の明暗利用については、周囲の明るさとの関係で効果が変わります。また瞬間的な明るさの変化は一般に威嚇刺激となりますので注意が必要です。
定置箱網への登り網の場合も網地で周囲を囲っているために通路が暗くなり、そこを通過するのを嫌がる場合があります。これも揚網作業との組み合わせで追い込むといいでしょう。