宮崎県で有限会社のミニトマト農園を経営しています。
ビニールハウスを16棟所有し、自社で選果場も持っていて、経営は比較的好調です。
この度、東京のITベンチャー企業から、画像センサー技術とAIを使ったトマトの自動収穫ロボットを共同開発しないかと持ちかけられました。
今後、農業経営の大規模化をはかるためにも、未来志向で先進的な技術を取り入れたいと思っているので、前向きに協力したいと考えています。
ただ、私どもの農園から、栽培ノウハウやデータ、経験を提供することになるのを心配しています。
共同開発に向けて契約するうえで、どんなことを注意するべきでしょうか?
(宮崎県・青山さん/仮名・40代)
下村豪徳
笑農和 代表取締役
栽培ノウハウは知的財産権です!
その農家さんが独自に積み重ねた栽培ノウハウは、法律で保護される「知的財産権(知財)」にあたります。
農業は一次産業ですが、動植物、化学、気象、土壌、土木、水の利用、機械、経営・経済といった幅広い知識と経験のうえに成り立っている知的産業ですから、農林水産省も、経営者や地域の皆さんがこれまでに培ってきた技術や経験などのノウハウ、農産物のブランド価値保護する姿勢を強化しています。
そのため、まずは弁護士や弁理士などに相談され、栽培ノウハウのうち、どの部分をオープンにするのか?どの部分は明かさないのか?を相談され、情報秘匿(クローズ)の部分については、知財として保護し、IT企業から知財利用料を払ってもらうなどの提案も可能だと思います。
今回は収穫工程のみのロボット化のため、収穫時の判断ノウハウがどこまで栽培ノウハウになるのか?という事は疑問ですが、いろいろ相談されてみると良いと思います。
栽培データについては、こちらも保護対象となる傾向にはありますが、栽培データが流出したからといって、そのデータにもとづいた判断・行動自体が農家のノウハウにあたります。
したがって、栽培データを守ることよりも栽培ノウハウを保護されると良いと思います。
大場寿人
三宅坂法律事務所 パートナー
弁護士と共に交渉を
最近は、さまざまな産業でAI技術を導入する動きが活発であり、農業分野も例外ではありません。
農業分野においてAI技術を発展させていくには、生産方法や技術をはじめ、その土地固有の環境が農産物の生育にどのような影響を与えるかなどといったデータをたくさん集めることが重要です。
ご相談者に共同開発を持ちかけられたIT企業にすれば、生産者が長年の経験を通じて積み重ねてきたノウハウや、実際に生産物を成育していく過程で生まれるさまざまなデータは、極めて価値が高いものといえるでしょう。
従って、こうしたデータの重要性をきちんと理解して、企業側と健全で対等なパートナーを結ぶことをお勧めいたします。
自動収穫ロボットの共同開発にあたっては、開発段階で集めた情報や画像などの膨大なデータの権利が農家と開発者のどちらに帰属するのかをきちんと話し合っておく必要があります。
さらに、ロボットが開発された後も、ロボットの利用権や、ロボットの販売などによって得られる利益の配分などについて、企業側と十分に交渉し、納得のいく内容で契約を結ぶことが必要です。
この契約交渉には、非常に高度な知見とスキルが必要なので、やはり弁護士などの専門家に相談されることをおすすめします。