千葉県のトマト農家、50代です。
道の駅にトマトを卸しています。
たまに、レストランなどのシェフから「道の駅で購入して食べて美味しかったので畑を見てみたい」と見学の問い合わせを受けます。
しかし、実際に見学してもらっても、最後には「検討します」となかなか契約に至ることはありません。
いまは見学の際に試食や品質説明を行っていますが、そのほかに商品を魅力的と思ってもらえる方法はあるのでしょうか。
野菜の魅力を伝え、契約してもらえるような営業のテクニックがあったら教えて欲しいです。
(千葉県・高橋さん/仮名・50代)
脇坂真吏
AgriInnovation Design/東神楽大学学長
営業テクニックよりも「輸送コスト」が問題なのかも。見直しを提案してみては?
そもそもこのコロナ禍、飲食店側から申し出をいただける。というのはごく稀なので、まず相談者さんは自信を持ってください。
明快な回答を得るためには、飲食店の方になぜ取引に結びつかないのか聞くことですが、正直に話してくれる人は少ないでしょう。
それでも聞いてみる価値はあると思います。よく農家さんに「そうしたことって聞いてもいいんですかね?」と尋ねられますが、答えを持っている人と接点があるのならば、聞かない理由の方がないです。
ごく一般的に回答すると、トマトは正直、日本全国に生産者がおり競合が相当数いますので、飲食店側からしたら、ぱしっとハマるトマトが見つかるまでどこまでも探せます。
今回、相談者さんのトマトがハマッたから見学にまで来たわけで、そこで取引に結びつかなかったのは、あくまでも推測ですが、営業テクニック云々ではなく「輸送コスト」にあるかもしれません。
というのも、飲食店側で取引の際に苦慮するのが「商品コスト」「供給可能数」「輸送コスト」3つの条件なのです。
このうち、商品コストと供給可能数は、出荷側と購入側での条件次第なので一概に何がいい悪いではなく条件にお互いにあてはまったかどうかになると思います。
一方で輸送コストに関しては、飲食店が生産地から近くて農家さんが自ら配達をする以外は、配送業者を使うことになりますので、どちらがどう努力してもそこにコストはかかってきます。
トマトは400円/kgで買えるけど、送ってもらうと送料合わせたら700円/kgになってしまう。そうすると仕入をするかどうか一気に悩むことになります。
これに関しては双方が努力できる範囲が限られてきますので、条件が合わなければどうしようもないことかと思います。
どうしても取引したいのであれば、今後、輸送コストについて提案してみるのもいいかもしれませんよ。
本多英二
aula brand design(アウラブランドデザイン)
飲食店とは別の切り口と、誰にも負けない個性で販路を切り拓きましょう
まず、相談者さんの専門はトマトを栽培することなのだから、営業トークに不慣れで当たり前です。
これは職人気質の生産者さんによくある傾向ですが、寡黙で頑固、商品に自信があるからこそ「食べてみりゃわかる」とおおむね営業ベタ。
逆に商品に自信がない生産者さんは、自分の商品に足らない部分を知っているため、そこを補おうと言葉巧みにセールストークを練ります。
それでも口が達者な人は怪しまれますし、押しが強い人は逆に引かれてしまいがち。ポイントは、人の心理は「押せば逃げる、引けば寄ってくる」。
相談者さんが「引き」の姿勢を継続することで、寄ってくる飲食店もいつか現れることでしょう。
ただし、ご存知のようにコロナ禍で飲食業界は壊滅状態です。行き場を失った商品を抱えた生産者は、JAや仲卸、バイヤーをアテにするのを止め、個人客に直接届けるようになりました。
WebサイトのショッピングページやECサイト(商品を販売するサイト)を活用し、販売の凹みを補って余りある収益を出した生産者事例は数知れず。
そのため、相談者さんは販売チャネル(場所)を変えてみるのも手です。ネットで評判になれば飲食店のシェフやバイヤーにも届きます。
「ウチに卸してもらえないか」というオファー(依頼)に「いや〜品不足で難しいんですよ」とやんわりお断りを入れ、心の中でガッツポーズを取る。なんとも小気味の良い話ではありませんか。
一点確実に言えることは、「他者を圧倒するポイントをひとつこしらえる」ことが他者を制します。
甘さ、香り、色形…何でも構いません。どれかひとつでも「ここは負けない!」というものを作ってみてください。
地域産品においては「総合的優等生」より「一点突破型の破天荒キャラ」の方が深く刺さります。
あなたが良い意味での奇人変人であれば、そのキャラクターを売りにしても良いでしょう。成熟したトマト市場においては、むしろそのような「トンデモナイもの」の登場を待っているのかもしれませんよ。