古くから梅の産地として全国的に有名な群馬で、梅農家をしている者です。
全国展開している梅の加工会社から「健康食品ブームで梅製品の需要が増えていますが、中国産が敬遠されているために国内産の梅をたくさん仕入れたいのです。
契約農家になってくれませんか?収入が安定しますよ」と営業をかけられています。
しかし提示された買取価格は意外と安く、そのままの金額では減収になる年もありそうなので、契約を結ぶかどうか悩んでいます。
地元の青年部の集まりで何人かに聞いてみたところ、すでに契約している人はたくさんいるようですが、「守秘義務がある」ということでなかなか契約内容については教えてもらえません。
こうした企業への専売契約をする際には、収入が安定するということ以外にどんなメリットがあるのでしょうか。
また、私は言葉足らずなので、企業の営業マン相手だと言いくるめられそうなのもちょっと怖いところです。
有利な内容で売買契約を結ぶためのコツや、特に注意が必要な点があれば教えてもらえませんか。
(群馬県・川島さん/仮名40代)
弁護士法人中村・大城国際法律事務所
弁護士法人中村・大城国際法律事務所
交渉前にリスクを明確にしておき、互いが長期的に利益をえられる妥協点を探しましょう
農産物の契約取引では、一般的には播種前に取引内容・条件を定めることになりますので、農産物が実際に生産されていない状況で価格や数量を合意することになります。
このような契約取引のメリットとしては、
1、相場に左右されずに取引価格が事前に確定すること、
2、生産した農産物が売れ残るおそれがなくなること、が挙げられます。
つまり、契約取引のメリットとは、一言でいえば安定的な取引が可能となり、経営計画が立てやすくなるということになります。
他方、同時に契約取引のデメリットについても考えておく必要があります。
デメリットはメリットの裏返しとも言えますが、
1、事前に合意した価格が実際の相場よりも低い場合でも、合意した価格で売らなければならないこと、
2、事前に合意した数量を出荷する必要があること、が挙げられます。
このようなメリット・デメリットの有無や程度は事前の合意(契約)の内容によりさまざまですが、生産者としてはメリットを大きくし、かつデメリットを小さくすることができればベストです。
もっとも、契約には必ず取引相手がいますので、自らのメリットばかりを大きくしようとしてもうまくいきません。
また、仮に自らのメリットを大きくし、デメリットを小さくする合意ができたとしても、取引相手からすればリスクが大きい取引になってしまいますので、取引が長続きすることはないといえるでしょう。
このような意味で、契約交渉においては自らのメリットだけを追い求めて有利になるようにするのではなく、長期的な視点から取引によって互いに利益が得られるようにしていくことが重要です。
とはいえ、取引相手がこちらに不利な条件を飲ませようとするかもしれませんので、一方的に不利な条件とならないように交渉していくことも大切です(もっとも、このような交渉をしてくる取引先とは、取引をすること自体を再考したほうがいいかもしれません)。
このように、交渉で自らに一方的に不利にならないようにし、かつ長期的な視点から互いに利益が得られるようにするためには、事前の準備が必要不可欠です。
交渉で失敗してしまう主な理由として、事前の準備不足があります。
ここでいう事前準備とは、自らの強みと弱みを認識し、引き受けることのできるリスクと引き受けることができないリスクを明確に区別するという作業のことです。
このような事前準備をすることで、例えば受け入れられる価格と数量の上限・下限を設定することができますし、また譲歩できるポイントと相手に譲歩を求めるポイントを明確にして互いにとって利益が得られる取引とすることができます。
事前準備をしっかりとしておけば、話下手であっても、相手の営業マンに言いくるめられることはありません(反対に言えば、事前準備ができていないと言いくるめられてしまうかもしれません)。
まずは、これまで生産してきた梅の数量や価格、さらにはこれからの事業計画をもとに、自らの強みと弱みを書き出してみてはいかがでしょうか。
その上で、譲歩できる点とできない点を明らかにし、先方との交渉にのぞむことができれば、一方的に不利な内容の取引となることはないはずです。
また同時に、取引から撤退する(取引をしない)という選択肢を持っておくことも重要ですので、譲歩できない点について合意できないのであれば、取引をしないという選択をすることも必要です。