新潟県の佐渡島で定置網漁をしています。
佐渡島では、定置網漁で獲れた魚の大多数を東京の豊洲市場に出荷しています。
なぜなら、その方が高値で売れるからです。
私たち漁業関係者からすれば、豊洲市場の皆さまは高値で引き取ってくれる良きお客様です。
しかし、地元の事を考えると喜んでばかりはいられません。
漁獲したほとんどの魚を東京へ出荷しているため、島内に地元で獲れた新鮮な魚が出回らなくなっているのです。
その影響で、島内のホテルでは、島外から入荷した安価な冷凍物の魚を提供しなければならなくなっています。
近年、ただでさえ漁獲量が減っているため、島内には地産の魚がほとんど出回らなくなってしまいました。
その結果、佐渡島に来た観光客は新鮮でも地産でもない魚を食べることになり、リピーターとならず、観光客の低下につながっています。
また、観光に来た方が「佐渡島で食べた魚ってそんなにおいしくなかったよね」といった口コミが広がれば、「佐渡島産」というブランド力にも影響を及ぼします。
こうした悪循環をどうにか解決できないものでしょうか。アドバイスをお願いします。
(新潟県佐渡市・福田哲也さん/仮名・33歳)
馬場 治
東京海洋大学名誉教授
地域や漁協と協力し、地産の魚貝類を使った料理で観光客を呼び込みましょう
豊洲市場に出荷することで常に高い価格で売れるとは限らず、魚種によってはむしろ安くなると言われることもたびたびです。
豊洲に代表される消費地市場では、せりや入札販売より相対(あいたい)販売(業者間で価格を相談し、一定期間、一定価格で取引する方法)が多くなった今でも、マグロ、うに、シラス、エビなど、せり売りが行われます。
これは、品質格差が大きく、その品質を評価して、それに見合った価格を決定する必要があるからです。
このようなせり売りの結果、高級寿司店、料亭などが多い東京にある豊洲市場では、物によっては確かに高価格となります。
一方、東京のような都会の家庭では、魚の調理を避ける傾向が強くなっており、魚が売れなくなっています。
その影響で、販売する側も売れ残りを心配し、安く仕入れる傾向が強くなっています。確かに都会にはたくさんの消費者がいますが、魚の調理もできず、またその善しあしも分からないので、そこに魚を送ることも考えものです。
他方、都会の消費者は自分で魚の調理はしなくても、おいしい魚を食べたいという欲求はありますので、産地に食べに行く人も多いです。
それこそが、産地の生産者の狙い目です。かつては、産地には地元の魚は出回らないと言われてきました。
しかし、観光客を相手とするならば、発想を変え、水揚地から近くて鮮度の良い物を、おいしい食べ方をよく知っている地元の人が提供するというのが最も合理的だと考えるべきではないでしょうか。
おいしい物は確かに東京に行きますが、もっとおいしい物を食べたければ産地に行くべきとアピールする方が、漁業者にとっての利益は大きくなります。
そのためには、ひとりの努力だけではなく、地域として魚料理を売りにする、あるいは食べる場所を提供するなどの取り組みが必要になろうかと思います。
最近では、漁協が自前で食堂運営に乗り出したり、道の駅のテナントに入って、地元産の魚介類を使った地元ならではの料理を提供して人気を博している所もありますので、参考にされてはいかがでしょうか。