せっかく漁師を目指して入ってきても、若者たちに研修中は最低限の賃金しか払えず、他にアルバイトをしないと正直生活は厳しいと思います。
これまで、現場で何をすればいいのか分からないまま周りから怒鳴られ、それが嫌で辞めてしまったり、漁師の仕事に対して漠然とした不安や悩みを抱えながら、何も言い出せずに去ってしまったりする若者たちを見てきて、非常に心惜しく思って来ました。
その反省から、最近は新規就業者が入ってくると、若手や中堅が付いて指導したり、定置網や刺網について海上だけでなく、陸に帰った後も作業を教えたりしています。
おかげで、途中で辞める若者も少なくなってきました。
こうした若者の力を漁業だけでなく、高齢化し、活気がなくなって来ている集落にも活かせないかと考えています。
漁協も新しく入ってきた漁師が地域に溶け込めるよう支援はしていますが、地域によって対応はまちまちです。
彼らが地域の人たちと互いに助け合える関係を築き、地域に活気をもたらしてくれるような存在になっていくためにはどうしたらよいでしょうか?
(富山県・吉本郁也さん/仮名・50代)
林 晋也
網代漁業株式会社 取締役・流通販売部長
まず地元行事や消防団への参加から無理強いをせず、個性や興味を尊重しましょう
新規就業者への指導や育成については、ご質問者様の実践していることは既に十分な水準にあると思います。
問題は地域への定着、溶け込み、還元といった事柄で、これは津々浦々の漁村が同じ問題を抱えていると思います。
新参者が地域へ溶け込んでいくひとつのきっかけとして、地元の行事への参加があると思います。
特に地域のお祭りは人手不足が顕著ですので、先輩漁師が誘えば、若者は即戦力として重宝がられ、特にお酒の席が好きな若者にはもってこいの場となります。
また、お祭り以外にも消防団への参加などを通して、漁業以外の地域との繋がりを持つことができます。
ただ一方で、人付き合いや酒の席が苦手、インドア派の漁師がいることも確かなので、そこは無理強いせず、一度声かけした後は、来るもの拒まず、去る者追わずの姿勢が良いのではないでしょうか。
大切なのはその人の個性・興味を尊重してあげることかと思います。
仕事以外に他人と関わるような趣味(スポーツなど)を持っている人は、オンとオフの切り替えも上手で、新たな出会い(異性との!)にも近づきます。
最終的にはその土地で所帯を持つこと自体が地域への定着、還元と成り得ますが、そればかりは神のみぞ知るといったところでしょうか。
最後に、他業種から転職、移住した私自身の体験としておすすめしたいのは、農家さんと繋がりを持つことです。
魚と野菜、果物の物々交換を気楽に気長に続けていますが、このような関係は地方に住む醍醐味だと思います。
鮮魚だけでなく、時にはイワシやカマスの干物を作って持っていくと非常に喜ばれますし、ハバノリやサザエを頼まれることもあります。
「今年のはまだかなぁ~」なんて言われると、頼りにされているようで磯モノ漁にも精が出ます。
また、農家さんは代々その土地で営農している方がほとんどなので、土地の事情通、生き字引であり、顔が利きますので、とても頼りになる「先輩」にもなってくれます。