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技能実習生が逃げてしまい、斡旋会社から損害賠償を請求されてしまった

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技能実習生が逃げてしまい、斡旋会社から損害賠償を請求されてしまった

神奈川県でブロッコリーやレタスなどを中心に露地栽培の野菜を育てています。鮮度を大切にするため、おもに夜明け前に収穫作業をしています。

おかげさまで作った野菜はお客さまに喜んでいただいていますが、年齢を重ねて、だんだんと作業がつらくなってきました。

後継者もおりませんので、思い切って外国人の技能実習生を受け入れることにしましたが、最初の給料を渡した翌日から仕事に来なくなってしまいました。

連絡しても通じませんし、斡旋をお願いした会社に苦情を言っても「技能実習生は逃げてしまった」としか説明してもらえません。

さらに、斡旋した会社からは私の対応が悪かったと非難され、損害賠償を要求されてしまいました。

私の対応が悪かったとは思っていませんし、言葉が思ったように通じない部分もありましたが、自分の子供のようなつもりで接していたつもりです。

斡旋した会社との契約に関しては、お恥ずかしい話ですが、簡単な文書を取り交わした程度です。今回のように技能実習生が逃亡した場合の取り決めなどは記載していませんでした。

知人に相談したところ、監理団体や警察に相談した方がいいとアドバイスをもらいましたが、このまま物事を大きくしていいものかどうか……。
(神奈川県・金子さん/仮名・60代)

津田秀太郎

弁護士法人ほくと総合法律事務所札幌オフィス 農業事業者向け法律相談窓口Law&Farmメンバー

「農家」と「外国人技能実習生」を仲介するのは「監理団体」と法律で定められています

回答に先立って、外国人技能実習制度について押さえておきましょう。

農家や農業法人が外国人技能実習生を受け入れる場合、「農家」と技能実習生を仲介するのは、厚生労働大臣の許可を得た「監理団体」が行います。

監理団体は、農家(実習実施者)の依頼を受けて、技能実習生を募集したり、面接や受け入れ手続き、必要な監理などを行う非営利組織ですが、「監理団体」の業務を第三者に肩代わりさせたり、無許可の法人が「監理事業」を行うことは違法です。
 
そして、相談者さまが受け入れた外国人が技能実習法(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)にもとづく技能実習生だった場合、その外国人は技能の習得を目的として在留資格「技能実習」を有し、監理団体の下で必要な講習を受けたうえで、雇用主の農家と雇用契約を結んで、日本国内で技能に関する業務に従事する者であったはずです。

したがって、もしも監理団体と雇用主である相談者さまの間に、「斡旋会社」が介在して、監理団体が斡旋会社に外国人の雇用などを監理団体の名義で斡旋させていたというケースであれば、この監理団体および斡旋会社は技能実習法に違反している可能性があります。

では、今回の相談内容がこのようなケースに該当するならば、相談者さまは「無許可で監理事業を行なった斡旋会社から、技能実習生を受け入れた」ということになります。この場合、雇用主である相談者さまにはどのような罰則があるのでしょうか?

実は技能実習法には、このような「受け入れ」をした者に対する罰則は明文化されていません。ですが、もしも斡旋会社が、他の農家に技能実習生を斡旋する際に、相談者さまが「あの斡旋会社は良いよ」などと積極的に仲介に関与したなどの事実があれば、斡旋会社の共犯として処罰される可能性があります。

また、そもそも逃亡した外国人が、実は「技能実習生ではなかった」場合、その外国人の労働は、在留資格の範囲外であったおそれ、つまり不法就労にあたる可能性がありますから、相談者さまには「外国人に不法就労をさせた者」として、出入国管理および難民認定法の「不法就労助長罪」として、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金を科されたり、またはこれらの併科を受ける可能性があります。なお、仮に相談者さまが不法就労であったことを知らなかったとしても、その知らなかったことに過失のない場合でない限り、処罰を免れることはできませんので、注意が必要です。

なお、「技能実習生の逃亡」に注目すると、次の点にも注意が必要です。

技能実習法上、「優良な実習実施者(雇用主)」としての要件を満たすと、技能実習生の受け入れ期間の延長や、受け入れ人数の拡大などの恩恵を受けられますが、技能実習生の行方不明などが発生すると、こういった恩恵を受けられなくなることがあります。

次に相談者さまが請求された損害賠償に応じる必要があるかの問題についてお話しします。

今回のケースは、相談者さまである雇用主と技能実習生が結んだ雇用契約は、監理団体が仲介するのではなく、第三者である斡旋会社が行っていたケースであるようにうかがわれます。

そうだとすると、監理団体と斡旋会社は技能実習法に違反している恐れがありますが、相談者さまが損害賠償責任を負うかどうかは別の問題です。

もし、斡旋会社が主張する「相談者さまの対応が悪かった」という内容が事実だとするならば、まずは相談者さまが斡旋会社との間でどのような内容の契約を結び、その契約内容のどの部分に違反したのかを確認する必要があります。

相談者さまは「簡単な文書を取り交わした程度で、技能実習生が逃亡した場合の取り決めはなかった」とおっしゃっていますが、残念ながらその説明だけでは、詳細な契約内容がわからないため、損害賠償の責任があるかどうか、判断がつきません。

もっとも、逃亡時の取り決めがなかったことや「言葉が通じない部分はあったが、我が子のように接していた」などといった事情にくわえて、法令上、技能実習計画を認定する際の基準のひとつに、技能実習生の失踪といった契約不履行が起きた場合について、「違約金を定める契約をしない」とされていることを踏まえますと、現実問題として、損害賠償責任を負う可能性は低いと思われます。

しかし、相談者さまに契約責任があるかどうかを見極めるためには、斡旋会社の言い分や、契約内容を詳しく調べる必要があることにご留意ください。

最後になりますが、監理団体や警察に相談するべきか否かの問題にお答えします。

相談者さまは「物事を大きくしたくない」とお考えのようですが、技能実習法上、雇用主である農家は、技能実習を行わせることが困難な状況になった場合、速やかに監理団体に通知する義務があります。

もし、この通知を怠ったり、虚偽の通知をした場合は、30万円以下の罰金を科される可能性があります。先述したとおり、今回の斡旋会社の行為は技能実習法に違反する悪質なものである可能性がありますが、もしもそのような悪質な斡旋会社であれば、相談者さまが「物事を大きくする」事態を恐れて萎縮してしまうと、その弱みにつけ込んで要求をさらにエスカレートさせてくるおそれがあります。

何もアクションを取らないことでかえってトラブルを招くおそれがあることが懸念されます。

まずは監理団体に通知し、斡旋会社の請求内容次第では、警察に相談することも検討なさってはいかがでしょうか?法的責任の有無や見通しについては、お近くの弁護士に相談することもおすすめします。

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河原崎 弘

弁護士 河原崎法律事務所

国が認めた監理団体の斡旋なら責任は生じない。まずは監理団体に相談を

外国人技能実習生を受け入れる場合は、国が認めた監理団体を通して、雇用契約を結びます。

そうすれば、農家に責任が生じることはありません。

監理団体は、農家の依頼を受けて、海外の送り出し機関と提携して、現地での面接やさまざまな手続きを行います。

農家と雇用契約を結んだ後は、適正な技能実習を行なっているか監査と指導する役割を果たします。

したがって、斡旋会社には実習生を派遣する資格はありません。

つまり、ご相談者さまに損害賠償を要求している会社は、極めて違法性が高いブローカーである可能性が高いです。

給与を支払った翌日から失踪したという点ですが、外国人技能実習生が、労働条件に満足していなかった可能性はあります。

農家が監理団体を通じて取り決めた雇用契約に基づいて、適切な勤務管理を行っていなかったとか、給与を支払っていなかった、人権を侵害するような言動をとったなどの非が認められれば、農家にも責任は生じます。

外国人技能実習生にも、労働基準法などが適用されます。労働は強制できないし、違約金も無効です。労働者に働いてもらうためには、魅力ある労働条件を提供する必要があります。

また、監理団体ではなく違法性の高い斡旋業者を通じて雇用していた場合も、雇用者側である農家に責任が生じますので、そこは注意が必要です。まずは監理団体と相談が必要です。

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