長野県のいちご農家です。
最近、うちの農園で外国人実習生を受け入れることになりました。
せっかくうちに来てくれるので、農地の造り方や水やりの加減、気温との兼ね合いなど、いろいろ教えてあげたいと思っています。
いちごの育成に関しては、地元の農協が協力してくれているので、身振り手振りで、なんとなく理解してもらえている気がします。
しかし、私も50代後半で外国語がわからず、いまひとつ会話が成立しません。
日々、実習生がどう感じているか、どのくらい理解してくれたのかを、もっと知りたいです。
コミュニケーションを持つことで、もっと打ち解けられれば、いちごづくりの楽しさや、日本の素晴らしさを伝えられると思うのです。
外国人を受け入れたいる農家さんでは、どのようにコミュニケーションを図っていますか?
ぜひ、アイデアを教えてください。
(長野県・小林さん/仮名・50代)
A.B.先生
農業経済学が専門の大学の名誉教授
働く仕組みを整えて、技能実習生に意欲を持たせてみましょう
私は大学で「農業技能実習生」や「特定技能1号」の外国人労働者について研究しています。いまや、日本の農業を活性化してくれる存在として、外国人労働者の存在は欠かせなくなっています。ご相談者さんのように日本人は外国人に優しいので、特別視する場面も多いですし、よく聞く話です。
ご相談者さんは、ご自分で外国語を学ぶ必要があるのではないかと心配されていますが、そんな必要はありません。雇われている側が言葉を習得するのが、被雇用者としての義務だと私は思います。
ただし、勉強する「意欲」を持たせるためにはどうしたらいいかが大切です。例えば、休日などに一生懸命勉強してもらう環境を整え、日本語能力試験のレベルがあがったら月給をアップする、などといったやる気を起こさせる工夫が必要でしょう。
私が知っている農業法人では、N4レベル(基本的な日本語を理解できる・ややゆっくり話した会話ならほぼ理解できる・基本的な語彙や漢字を使って身近な話題の文章を読み理解できる)に認定されたら、月給を1万円アップしていました。
意欲を持たせ、やる気を出してもらうには、このような目に見える形がいいですね。他の外国人実習生も真似をしてくれ、全体のレベルが上がってきます。この場合、受験料は農業法人が負担していました。アップする賃金はそれほど高くなくて大丈夫。最初と差がつけばよいのです。
要は「仕組みを整える」ことが重要です。研修生から技能実習生に位置づけが変わった時点で、技能実習生は雇用労働者になり、労働基準法のフル適用の対象になったので、残業手当を支払うことで、もっと働いてもらうことも可能です。
いまだに、技能実習生は8時間労働とされているとか、労働条件に制限がある、と考えている雇用主は多いようですが、技能実習生は日本に働きに来ているのです。日本人と同じように休暇をもらうとか、特別扱いされることより、きちんと働ける環境、頑張れば手当が増える仕組みなどでサポートすることの方が重要だと思います。
まずは就業規則を設けてみましょう。その際、残業には「36協定」が必要です。管理費を払っている監理団体が、こうした働き方のモデルを持っているはずですので、ぜひ相談してみてください。
日常の仕事の指示は「やさしい言葉(わかりやすい言葉)」を使うよう心がけましょう。指示する時は、ひらがなを使って、絵や図などのビジュアルで示します。この時に必ず、実習生にノートを取らせるようにしてください。記録は記憶に繋がります。
また、理解しやすくするために、方言はできるだけ使わないようにしましょう。農作業のやり方は、ビデオやYoutubeなどを活用して、動画で見せながら教えるようにすると、さらに理解してもらいやすくなります。
神山琢光
人材支援事業 カスタマーサポート部 マネージャー
1人の人間として、実習生と信頼を積み重ねてみてはいかがですか
YUIMEでは、外国人の人材は「特定技能1号」の資格者のみ派遣を行なっていますが、こういったご相談は、農家さんから本当に多く寄せられます。
その際にまず、お話ししているのが「普段の暮らしの中で、皆さんが外国人と接するとき、どういう工夫をしていますか?」ということです。農業の現場だということや、労使関係という考え方を一度取り払ってみると、想像しやすいのではないでしょうか。
一個人として、日本人として、相手の文化を少し勉強してみたり、インターネットで検索してみたりしますよね。食事のこと、家族や異性、母国の慣習といった話は、世界共通で簡単に盛り上がれる話題です。
難しいことを考えなくても、言葉がわからなくても、コミュニケーションを取りたいと思えば、ジェスチャーでも通じます。今はスマホで単語を検索したり、動画を見せ合ったりすることもできるでしょう。そうした日々のささいなやり取りが、信頼を積み重ねていくはずです。
農家さんの中には、定期的にBBQなどのイベントを開催している方もいらっしゃいますし、外国人スタッフに、地域のお祭りやイベントに積極的に参加するよう呼びかけている地域もあります。そういった現場はコミュニケーションがうまくいっているようです。
ただ正直なところ、外国人スタッフが「あの現場へ戻りたい」「また行きたい」と思ってくれる、一番の要因は「稼げる」現場、すなわち「給料が良い、労働時間を多くとれる現場」です。(但し、特定技能資格がある場合。技能実習資格の場合は残業や労働時間に制限があるため当てはまらない)
次に支持されるのは「コミュニケーションが取りやすい現場」です。例えば、宿泊場所について「夜寝るときに、すきま風が寒い」というような訴えが普通にできて、その訴えをきちんと受け止め、改善してくれるような現場ですね。
いずれも、日頃から人と人との関係がしっかり築けているか、ということが大切になってきます。よりよいコミュニケーションは現場のモチベーションにつながり、ひいては生産性にも直結すると思います。