代々続く野菜農家です。高齢になった父を見かねて、それまで勤務していた一般企業を早期退職し、就農して10年が経ちました。
小さいときからよく手伝ってきましたし、半ば兼業のような形で携わっていたので特に苦労をしたということはありません。
現在は一人でなんとか切り盛りしていますが、年々規模は縮小しています。ささやかながらアパート経営もしており、生活していく分には問題はありません。
息子たちは独立しており就農の意思はなく、後継者もいないので私の代で終わりになるかもしれません。
せっかくの畑ですから、たとえ小さくなったとはしても、続いてほしいというのが本音です。
いろいろと相談できる関係があればよいのですが、頼れるところもありません。
そんなとき、「TAC」という事業承継の取り組みがあることを雑誌でみました。私のような場合でも相談できるのでしょうか?
(神奈川県・田中さん/仮名・60代)
伊東悠太郎
水稲種子農家
TACとは担い手に出向くJA担当者の愛称ですが、JAに相談して事業承継の考えを整理しましょう
TACとは、地域農業の担い手に出向くJA担当者の愛称です。TACが農家の担い手を訪問し、意見や要望を伺い、JAグループの事業に反映させていくことで担い手に還元していくことが大きな役割です。
「それは良い取り組みだね」と思われるかもしれませんが、実は全国のJAに配置されているわけではないのです。
地域のJAによっては、TACという愛称を使わずに活動している場合もあれば、営農指導員や営農経済渉外担当が同様の役割を担っている場合もあります。
また、今の日本農業は、担い手と言われる農業法人や集落営農、中核農家などが、農地や販売、購買金額などの割合の多くを占め、上位2割の農家で8割をカバーしていると表現されることも良くあります。
そうしたなかでJAグループの職員数にも限りが当然あるわけですから、すべての農家を訪問するのではなく、各JAで重点的に訪問する、対応する担い手を選定しています。
そのため、心象を害されるかもしれませんが、ご相談者さんがおっしゃる「年々規模を縮小されている」のであれば、訪問対象に入っていない可能性もあるのだろうと思います。
しかし、JAグループとしては、農家の声を聴くというのは基本中の基本ですし、お困りごとがあるのであれば、気兼ねせずにお近くのJAにご相談頂ければ良いと思います。
ただし、ここからは私の個人的なお願いなのですが、「後継者がいなくて自分の代で終わりで良い」というボヤキではなく、「息子に農業を継ぐかどうかという話をしたいので協力して欲しい」「事業承継ブック親子版を使って話をしたいので、冊子が欲しい」、あるいは「息子が継がないため第三者承継を考えたいので、どうすれば良いか教えて欲しい」と言った相談を是非して欲しいということです。
TACかそうでないかはさておき、相談をするという行為を通じて、ご自身の事業承継に対する考えを一度整理されることで、JAグループとしても相談に乗りやすい対応策を一緒に考えやすくなるのではないかと思います。