米専業の農家です。息子の進路に関する相談です。
現在、息子は地元の農業高校に学んでいて、休みの日には1日中、文句も言わずに農作業を手伝ってくれます。
中学校に入った頃から米づくりに関心を示し、農業を継ぎたいと自ら志願して農業高校にも入ってくれました。
その息子も2年生になり、今後の進路について考え出しています。
本人の希望としては、農業を継ぐつもりのようですが、米作りのスマート化に関心があって、大学に行ってさらに勉強してみたいそうです。
学力的に地元の国立校は難しいので、東京の大学を希望しています。
父親として私の本音は、東京の大学だとお金の工面が厳しく、しかも大学卒業後に進路変更が起こらないとも限らず、正直なところ不安です。
できれば高校卒業後にすぐに親元で就農し、早くから技術を身につけてほしいと思っています。
仮に学校に行くにしても、地元の農業大学校にしてほしいです。
今後、息子とどのように話し合いをすすめ、本人の希望にどう対応していったらよいでしょうか?
(山形県・五十嵐仁志さん/仮名・50代)
山下弘幸
株式会社農テラス代表取締役、農業経営戦略家
息子さんの人生です。大学で必ず米事業を継続・発展させるための知識・智識を身につけてきます。私も同じことを経験しました
以下が私の本音です。結論を先に言えば、子供が希望しているのであれば、借金してでも東京の大学に行かせるべきです。
父親であるご相談者さんの本心は「東京の大学は費用の工面が難しい。さらに卒業後、進路を変更して農業を継がないと言い出すのではないか」と心配しているからこそ、高校を卒業したら、すぐに就農して早くから技術を身につけてほしいわけです。
仮に進学させるにしても、地元の農業大学校にしてほしいと希望されているのですよね。
相談者さんにとっては耳の痛い話になりますが、それは"親のエゴ”です。
それに、正直な話、地元の県立農業大学校に入ってもあまり役には立ちません。なぜなら講師が地元の県職員(普及員)であるケースが多いからです。
次に息子さんに目を向けてみましょう。息子さんは、中学生の頃から、米づくりに関心があって、自ら農業高校に進学してくれたとあります。そのうえで、米づくりのスマート化に関心を持って、東京の大学で勉強したい。
しかし、ちょっと待ってください。息子さんの気持ちは本当にそこにあるんでしょうか?
農業に興味がある子供であれば、本心から就農を希望している場合もありますが、えてして親に気を使っている場合も考えられないでしょうか?
なぜなら、ちょっと社会のことを勉強してみたら、米事業が今後も厳しいことや、米農家がこれから先、経営的に成功するのは至難の業だと気づくはずです。
もちろん、親であるお父さんもそのことに気がついているはずですね?
だからご相談者さんは、東京の大学はお金がかかるし、卒業したら気が変わるんじゃないか、などを理由にしているのです。
父親としては、高校卒業後に就農するか、地元の農業大学校への進学を勧めることで、我が子が米農家の現実に気づくのを阻止したいのではないでしょうか?
実は、私の父がそうでした。私が東京の大学へ推薦をもらった時も断固として反対したのです。
その経験から、厳しいことを申し上げれば、あなたのお子さんが、東京の大学へ進学して、今よりも知見が広がれば、おそらくすぐに家業を継ぐというような道は選ばないかもしれません。
しかし、お子さんは優しい若者です。必ず親元に帰ってきて、いずれお父さんの米事業を引き継いでくれると思います。
帰郷する日には、お父さんの米の事業を将来にわたって持続・継続させるような“知恵”をお土産にして帰ってくるでしょう。
息子さんが持ち帰ってくるのは、それだけではありません。
彼が身につけ、学んだのは、米の事業を今よりもずっと発展させる“智慧”なのです。だからこそ、ご相談者さんには、自分の息子をぜひ信じてあげてほしいと願うのです。
最後になりますが、今後、どうやって息子さんと話し合うか悩まれていますが、私からはこの言葉を贈ります。
「自分の人生だから行きたい大学があればそこに行きなさい。
ただ、お父さんが応援できる資金はこれだけだ。
残りは奨学金とバイトで工面しなさい。
家業を継ぎたい気持ちはとても嬉しいが、君自身の人生だ。
そう慌てて決めなくてもいい。
しっかり勉強して、自分が納得のいく進路を決めればいい。」
こう伝えてあげてください。
私も50代で、子供に同じことを言って東京の大学へ送り出しました。
本人がどう思っているかはわかりませんが、私は我が子を信じて、子供の意思を尊重したつもりです。
しかし、これもまた“親のエゴ”なのかもしれませんが…。