宮崎の専業農家です。最近は娘が、結婚を考えている彼氏と一緒に週末に農作業を手伝いに来てくれるようになりました。
将来的には農家を継ごうとまで考えてくれており、大変喜んでいたのですが……彼への指導方法に悩んでいます。
彼は、真面目な性格でとても熱心に細かく質問をしてくれます。
ただ、農業は気候の変動や、長年の農家の勘などもあり、適当が大切な部分もあります。
彼の質問に答える時に「だいたい」や「目分量」というアバウトな回答だと、彼はどうしても納得ができないようなのです。
見て学んで欲しい部分もあり、作業中にいちいち理由を細かく説明することに限界を感じております。
せっかくの後を継いでくれるという気持ちを大切にしていきたいですし、やっぱり辞めると言われても困ります。
どうしたら彼も納得できる形で教えることができるでしょうか。
(宮崎県・工藤孝文さん/仮名・58歳)
伊東悠太郎
水稲種子農家
農家の当たり前も農業未経験者にとっては未知の世界。教える側の見方を変えることが大切です
この時代に、娘さんの彼が農業に興味関心を持ってくれたうえ、実際に手伝ってくれるというのは、とてもありがたいことですね。
彼の質問が細かくて疲れる、とのことですが、まず理由を考えてみましょう。
熱心だということもあるでしょうが、農業経験のない彼にとって「わからないことしかない」という状況ではないでしょうか?
相談者の方にとっては当たり前のことでも、彼にとってはすべてが未知の世界。当たり前ではないはずです。
最近は「同じことを100回聞かれても笑顔で答える」をモットーとするスマホ教室があるのをご存知ですか?
スマホに不慣れな高齢者の方々に、操作方法をイチから教えるのはとても難しいことです。
どこかで手順をひとつ忘れると、思ったような操作ができないわけですから、
しつこく、細かく質問をしてしまうでしょう。
また、私も今4歳になる子どもの子育て中ですが、歯磨きの仕方やおもちゃの後片づけなどを教えても1回でできるものではありません。
それらと同じだと私は思います。
教える側が少し見方を変えて、「1回教えたらちゃんとやって」と思ってしまう気持ちをどう消化するかが大切です。
実際のところ、農業の世界には、数値化・文章化されておらず、長年の経験に基づいた知識がたくさんあります。
だからこそ、「次から一緒にデータを取ってみよう」「デジタル化の作業をやってみてくれないか」などと相談者さんの方から提案してみて、これまでにつちかった経験を、一緒に「見える化」してみてはどうでしょうか?
私も父親からの事業承継の際には、いろいろな作業をマニュアル化しました。
マニュアル化といっても難しくとらわれず、料理のレシピをイメージしてみてください。
レシピには、豚肉細切れ300gと具体的に書いてあるものもあれば、コショウ少々のようにアバウトなものもあります。
最終的に味は人によって変わるでしょうが、作りたい料理は誰でも作れますよね。
農業においても、こういったレシピ=マニュアルを作ることが重要だと思います。
あとは、彼に「わからない(=聞きたい)ことリスト」を作ってもらってはどうでしょうか?
その都度わからないことを聞かれるよりは、相談者さんの方でも、心の準備と資料の準備ができるかもしれません。
娘さんの結婚がうまくいくかは、あなたにかかっていると言っても過言ではありません。
というとプレッシャーかもしれませんが、彼とコミュニケーションを取りながら楽しく取り組めることを願っています。