2ヘクタールほどのりんご園を経営しています。りんご畑は15度ほどの傾斜地にあり、園内の作業道も少し傾いています。
今春、農薬散布を行うためにスピードスプレヤー(SS)を導入しました。
本当はキャビン型がほしかったのですが、値段が安いオープン型を選びました。
しかしケチった分、横転した時の事故リスクが高いので、これを機会に園内の作業道を直すことにしました。
SSの車幅は120cmほどありますが、現在の道幅は150cmほどで、軽トラがギリギリ通れるくらいしかありません。
傾斜は測ったことがないので正確なところはわかりませんが、5度から10度くらいはありそうです。
収穫後の冬を利用して作業道を整備したいと計画しています。SSが園内を安全に走行できるようにするには、道幅や傾斜などをどのように直したらよいでしょうか?
(青森県・工藤勇雄さん/仮名・50代)
松澤 努
農機具屋
傾斜地用のスピードスプレヤーもあるが、安全走行のために土木工事も必要です
品質の良い果物を栽培するためにも、消毒散布は非常に大切な作業です。
農園がフラットな場所にあるなら、条件が良ければ、スピードスプレヤーなどを使って効率よく農薬散布できますが、そんなに好条件の土地には恵まれません。
先祖代々受け継いだ果樹園が、傾斜のきつい場所にあることは、私がいる信州の中山間地では一般的です。
急傾斜地の場合、消毒散布は重いホースを引っ張りながら、手作業で行う必要がありますし、刈払機を使った草刈りや三脚に乗った高所作業など、効率も悪く危険が伴います。
省力化を期待して、高いお金を出して農業機械やSS、乗用の草刈モアー、高所作業台などを買っても、圃場の形状から機能を発揮できず、悔しい思いをすることがあります。
ですが、圃場を整備して、最適な機械を選べば、これまで使えなかった機械がスムーズに活用できる場合がありますから、諦めてはいけません!
以下、圃場整備や管理方法についてまとめてみました。
1、通路の拡幅作業の方法
現代は、富士山にトラクターが登っていける時代です。スピードスプレヤーも安全走行できるよう、通路を拡幅して、崩れないよう土止めなどを行う必要があります。
簡単な手順を紹介しましょう。
①安全走行可能なコースを設置するためには?
農機具の出入り口と旋回スペースを広めに取ります。出入り口は段差を無くして、スムーズに出し入れできるようにしましょう。
旋回スペースは、山側(上)と谷側(下)との間に段差ができますが、段差が大きいと、雨の時に地盤の土が流れやすくなるので、「土止め」して崩れにくくしましょう。
土止めには以下のように石を積んだり、古タイヤに土を入れて重ねたりする方法があります。
そのほか、鉄道の古い枕木などを購入して使えば、土の流亡が防げるとともに、地滑りや脱輪、スリップなどが起こりにくくなります。
この時、気をつけることは、走行路が斜面を横切るように、できるだけ直線的に設置します。
2、日ごろの圃場管理について
①草刈はこまめに
農機具を使う作業前には、必ず作業者が走行路の上を歩いて、安全に作業できるかどうか確認してください。
また、消毒散布前には必ず草刈りを行っておきます。走行路が草で覆われていると、脱輪したり、草露や農薬の液体がタイヤのスリップ原因になりますので、日ごろからこまめな草刈り作業を心がけましょう。
②走行路をふさぐ枝は?
りんごやミカンなどの果樹が実って大きくなってくると重みで枝が垂れてきますが、この時に走行路をふさがないように、枝につっかえ棒などをしておくことが重要です。
もしくは、走行路にかかる下枝を思い切って切るのも、安全走行につながります。
果樹園での事故、ケガの実態を見てみると、下枝に挟まれてケガする事故も目立ちます。
スピードスプレヤーの車体の高さ付近まで枝が垂れ下がっていると、操縦者は頭を下げて走らなければならず、その時に目線が進行方向から離れます。
その結果、木に接触したり、走行路から脱輪する恐れがありますので、事前に走行路をふさぐような邪魔な木や枝は切ってしまってください。
3、どんな機械を選べばいいか?
①傾斜地用の機能を備えたSSを選ぶ
最近は、各メーカーから傾斜地用のSSも販売されています。
傾斜地専用のSSは、噴口の角度を変えることができて、山側や谷側への散布ムラをなくしたり、ファンが付いている風胴部分の角度を変えることで、まんべんなく農薬を散布することができます。
また、六輪駆動にすることで走破性、安定性を向上させた仕様や、狭い走行路でもターンできる4WS(後輪操舵=後輪が前輪と逆方向を向いているので旋回しやすい)機能がついた機種も登場しましたので、ご相談者さんの圃場環境にあった機種を選びましょう。
②手動散布用ホースのススメ
前述した機能とは別に、手で農薬を散布するためのホースをつけておくといいでしょう。
傾斜地でなくても、スピードスプレヤーを使う場合、どうしても農薬の散布が不十分な果樹が残ります。無理な体勢で果樹側に近寄っていくと、横転や脱輪などの事故につながりかねません。
これを避けるためにも、面倒ではありますが、手による散布が必要です。
急傾斜地での農作業、機械作業は危険がつきものです。安全に作業しやすくするためには、大事に育ててきた木を思い切って整理することも必要ですから、普段からの圃場の管理や手入れが役に立ちます。
最後に、作業回数を重ねて慣れてくると油断がつきものです。前回は問題なく作業できたから、もう大丈夫などと思わないで、慎重な作業を行なってください。
事故を起こさないよう、安全で快適な作業を心がけてください。