都市から少し距離がある町で、野菜農家を営んでいます。
年間40種ほどを手がけ、出荷は市場と直売所が中心です。
栽培は露地をメインに、一部を施設栽培もしています。地域の特性上、作れば作るだけ売れる「地の利」があることは非常にありがたいことです。
ところが近年、農地のすぐ近くまで住宅ができはじめ、農作業を行う際に近隣住民への配慮が求められています。
こちらのほうが、この地で昔から畑を続けてきた実績があるのに…と、なんとも釈然としません。
今まで考えたこともなかった問題に直面することが多く、戸惑うばかりです。
こうした事情から、病害虫防除のための農薬散布もやりにくくなっています。
ハウスにおいては、連作のためか、根にこぶがついてしまうセンチュウの被害も目立ちます。
都市農家特有の事情だと思うのですが、こうしたケースでの有効な病害虫対策について、アドバイスをお願いします。
(神奈川県・金子さん/仮名・40代)
豊田剛己
東京農工大学 農学研究院 生物システム科学部門 教授
農薬散布ができないわけではありませんが、有機農家を参考に連作を極力控えて輪作しましょう!
「農地が住宅地に隣接しているので病害虫防除のために農薬散布ができない」とのことですが、センチュウ対策というと「ドロクロール®︎」のことを指していらっしゃるでしょうか?
農薬のなかでも、使用すると、すみやかにガス化し、土壌中の病原菌や雑草種子を殺す燻蒸剤です。
確かに燻蒸剤は住宅地に隣接しているところでは使うべきではありませんが、そのほかの殺菌剤や殺虫剤、除草剤は、散布する人やその周辺に特段大きな影響を及ぼすわけではないので、農薬散布ができないことはありません。
また、燻蒸剤のなかには、すぐには揮発せず、数時間から数日間かけて、殺虫・殺菌成分がガス化するものもあります。
代表的なのは「バスアミド微粒剤」で、人体には無害ですが、ほかと比べて高価なのがネックです。この薬剤を土壌に灌注し、ビニールで被覆して消毒するのも選択肢のひとつです。
農薬は一切不使用とするなら、有機農家が参考になるかと思います。具体的には、連作を極力控えて輪作するのが第一です。
次におすすめしたいのは、「クロタラリア」や「ギニアグラス」「マリーゴールド」といったセンチュウを抑制する効果で知られる緑肥です。
緑肥は、生の草や葉などをすき込む肥料のため「地価の高い都市近郊ではそんな余裕はない」という声もありますが、燻蒸剤も緑肥も使わずにセンチュウ対策をするのは、ほぼ不可能です。
近年、農家の高齢化が進み離農者が増え、若手農家のところに農地が集約される傾向があります。そのため、農家ひとりあたりの平均耕地面積が増えているのが現状です。
こうしたことからも、自分の所有する畑すべてで換金作物(市場で販売するための農作物)を栽培するのではなく、一定の比率で緑肥を栽培し、次作のためのセンチュウ対策や肥料軽減策(クロタラリアのようなマメ科緑肥を栽培してすき込むことで、次に作る作物では、窒素肥料の約3割減が見込める)を施す、というスタイルが、今後重要になってくるのではないかと私は思います。