私は沖本島から約100km離れた離島・久米島で生まれ育ちました。
高校からは福岡県でひとり暮らしを始めて、卒業後も福岡県で会社員をしていましたが、数年前に脱サラして久米島で親戚のサトウキビ農家を手伝っています。
子供のころは地元のサトウキビ畑が遊び場で「ゆっくりと時間が流れる良い場所だな」くらいにしか思っていなかったのですが、大人になっていざ就農してみると、高齢化により島内の働き手は減るばかりで、年々後継者問題が深刻化している現状に不安を感じるようになりました。
離島には、本州にはない悩みがあると思うので、同じように離島で後継者問題を解決した地域があるなら、ぜひ成功例を聞いて今後の参考にしたいのですが、どこかありませんか?
(沖縄県・藤崎さん/仮名・60代)
上田嘉通
一般社団法人離島総合研究所 代表理事
「稼げる産業」が後継者を引き寄せます。明確なゴールを定めることも大切
離島における農業の後継者不足は珍しいことではなく、離島に人が住み続けるために最も重要な問題と言えるかもしれません。
後継者不足を解決するためにはまず、その背景を理解する必要があります。
「後継者がいない」ということはつまり「後を継ぎたいと思える産業ではない」ということです。
その根本にあるのは、「頑張っても稼げない」「若者にとって魅力的ではない」ということではないでしょうか?
「稼ぐ」ためには、質の高い地産品、商品を作るだけでなく、その意味と価値がわかる消費者にそれを届けなければなりません。
また「若者にとって魅力的な仕事」には、自身の成長を感じられたり、社会貢献している実感が得られたりすることが求められます。
それらを踏まえたうえで、後継者不足に立ち向かっている離島を2つご紹介します。
ひとつめは、人口約70人の鹿児島県三島村竹島です。
竹島では「大名筍」というタケノコが特産品ですが、担い手不足により、島民だけでは竹林管理や収穫ができないという課題を抱えていました。
そこで「村おこし」を専門として活動する「NPO法人ECOFF」と連携し、大学生ボランティアを募って竹林の管理や収穫をサポートしてもらうことに。
また島外のマーケターやデザイナーなどの力を借りてパッケージを変え、販路の拡大を図っています。
後継者不足を解消するためには、産業として稼げることが大切ですから、まずは特産品の売上を向上するための取り組みを行います。
そして、タケノコの生産には年間を通して作業が発生するわけではないので、局所的に不足するマンパワーを島外から募って補います。これらは久米島でも大いに参考になるのではないでしょうか?
2つめは、人口約200人の山形県酒田市飛島です。
20~30代の若者の移住者が増えている飛島では、近年、島のさまざまな課題をビジネスで解決しています。
そのなかでも、すでに10人近い雇用を生んでいる「合同会社とびしま」は、「島内では、ひとつの産業で生計を成り立たせるのは難しい」と考え、漁業の手伝い、加工品づくり、空き家管理、旅館運営、デザインの仕事といった島内の複数の仕事を組み合わせて生活を成り立たせるモデルをつくっています。
このように複数の仕事を組み合わせて生活する人のことを「マルチワーカー」と呼びますが、離島で生活していくには大切な考え方だと思います。
いずれにせよ「後継者不足」という問題に対しては、何をゴールに設定するかがポイントになります。
「既存の産業の存続を大事にする」なら竹島のような取り組みが参考になるでしょうし、産業の形よりも「島に人が住み続けること」を重視するなら飛島の取り組みが参考になるでしょう。
久米島が今後、どのような方向に進みたいのかを、島に暮らす人たちで話し合うことが必要だと思います。
上島町役場 産業振興課
愛媛県 上島町役場 岩城総合支所 産業建設部 産業振興課
愛媛県上島町では、ワーキングホリデーや研修、インターン制度で就農者を増やしました
愛媛県上島町は、瀬戸内海に浮かぶ25の離島からなる町です。
当町では、就農を目的とした定住を推進するため、お試し感覚の「ワーキングホリデー」(1週間)、じっくり就農を検討できる「お試し就業研修事業」(20日間)、本格就農に向けて技術と知識を取得できる「インターン事業」(2年以内)という、3つの制度を用意しています。
「ワーキングホリデー」は、1週間の滞在期間中、3日間で主に柑橘と野菜栽培の農業体験(町から5,000円/3日分の研修費用を支給)を行い、残りの日数で町内を自由に満喫していただきます。過去13年間で111名が利用されました。
「お試し就業研修事業」は、農業の就業を希望される方を短期間支援するもので、主に柑橘・野菜栽培の農業体験で20日間(1年以内)の研修(町から5,000円/20日分の研修費用を支給)を行います。過去13年間で8名が利用されました。
「インターン事業」は、新たな担い手の確保を目的とし、農業の就業を希望される方を支援するもので、町が指定する農家で2年以内の作業実習等を行います(町から10万円/月の研修費用を支給)。過去13年間で8名が利用されました。
また上島町の25の離島の中でも特に、岩城島では、「青いレモン」を地域ブランド化させることによりIターン就農者が増えています。
その要因として、昭和40年代末ごろに国内で温州みかんの生産過剰による価格暴落が起きた際、岩城島では、雨が少なく温暖な瀬戸内という立地的な利点を生かして国産レモンの生産に転換したことが挙げられます。
その後、「青いレモンの島」を商標登録し、1985(昭和60)年には第三セクターである「株式会社 いわぎ物産センター」を設立。官民一体となってレモン栽培に取り組むとともに「岩城レモン」の販売強化に努めました。
さらに、レモンは永年性作物であるため、1982(昭和57)年の苗木配布(村内2000本)の効果が上がったことや、再生産価格が維持できたこと、またマスコミ等の情報発信により「岩城レモン」の認知度が上がったことなどが相まって、地域ブランドが確立されました。
このようにして上島町では、「定住促進には農業=レモン栽培」という構図ができあがり、Iターン就農者の実績もできてきたという経緯があります。
「農業で生計を立てる」ということは、「農産物を販売し対価を得ること」と言い換えることができますが、それは個人の農家さんだけではなかなか実現することが難しいでしょう。
また現状、JAが農産物の販売を担っている地域が多いと思いますが、上島町では第三セクターで設立した「(株)いわぎ物産センター」が、生果やその加工品の製造・販売と岩城島のレモンの振興に大きく貢献してきました。
同じ離島として、上島町の例が参考になることを祈っています。