京都で農業をしている者です。父の代から継いで10年ほどになりますが、いまだに野菜の種をどこで買うか毎回悩んでいます。
父はずっと農協で購入していましたが、サラリーマン出身の私は相場より高い費用が気になって、ホームセンターやインターネットなどいろいろな店舗から仕入れては試すを繰り返しています。
最近ようやく農作業にも慣れて少し余裕が出てきたので「それならいっそ自家採種してみようか」と考え始めました。
父には「自家採種は難しい」と言われましたが、安定するまでに何年くらいかかるものでしょうか。
いま主に栽培しているのは、なす、ピーマンです。ちょうど知り合いから農地を譲り受けることになっているので、これを機に新しい野菜を育ててみようとも思っています。
自家採種に向いているおすすめの野菜があれば、教えてほしいです。
(京都府・坂本龍樹さん/仮名・40代)
鈴木光一
鈴木農場・伊東種苗店
自家採種に向いている作物もありますが、お父さんの気持ちもわかります
基本的なことから申し上げると、種には固定種(在来種)と交配種(F1種)の2種類があります。
現在、販売レベルで野菜を作っている農家のほとんどが交配種をメインに営農しております。
その理由はいくつか挙げられますが、固定種は生育にバラツキがあって、良い種を選抜するために見極める必要があるなど、採種自体に手間がかかります。
一方で、交配種は種苗メーカーが開発したものですから、病気に強いとか、生育が揃っているなど、安定しているので、ウチも含めて野菜の栽培農家のほとんどが、交配種を使っています。
ただ自家採種ができないわけではなく、ウチでも以前は、ネギなどを自分のところで採種していたことがありますし、里芋などイモ系は意外と自家採種に向いていると思います。
注意しなければならないのは、じゃがいもです。自分の畑で収穫したイモを、翌年に種芋にすると、いろいろな雑菌が入っていて、病気にかかったりして、うまくいかない可能性があるので、基本的には種芋を買われる方が多いです。市販されている種芋自体は、管理された環境で作られた原種なので、病気にかかるリスクは非常に少ないです。
とはいえ、繰り返しますが、自分の畑で採れたイモを種芋にすること自体が不可能というわけではありませんから、イモ関係は自家採種に向いていると思います。
あとはニンニクも自家採種できなくはありません。ただ病気のリスクを考えると、相談者のお父さんが反対する理由もわかります。私も息子が「自家採種したい」といい出したら、その手間とリスクが多いことから「やめろ」と言いますね。
アブラナ科の野菜は、交雑しやすいので、露地栽培の場合、隣の畑で違うアブラナ科を育てていたら、受粉昆虫を通じて、違う形質が出る可能性もあります。
畑を囲ってビニールハウスの中で、外部から侵入しようとする虫を避けて栽培しなければならないなど、コスト・労力ともに見合わないのです。
また、2021年に施行された改正種苗法では、育成権を保護するために登録品種であることを示す「PVPマーク」がついた種については、勝手に増殖して他人に譲渡したり、販売・流通できなくなりましたから、自家採種についても注意が必要です。
竹下大学
技術士(農業部門)J.S.A.ソムリエ
自家採種は時間と根気が必要です。意欲と時間の余裕があれば、ぜひチャレンジを
自家採種に挑戦してみたいとのこと。意欲と時間の余裕をお持ちなら、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
ただ、お父さまが難しいとおっしゃる気持ちも分かります。
自家採種については、「自家採種すると性質が悪い方に変わる可能性が高い」「そもそも費用対効果の点で見合わない。手間賃を含めると買った方が安い」というリスクがあるのは事実です。
ただし、「性質が悪い方に変わる可能性」については、固定種であれば心配する必要はありません。
もっとも優れた株から採種すれば、ご自身の栽培環境により適した性質に変わってくれる可能性もあります。
栽培してみたいと考えている品目のなかから、古い固定種や在来種を選んで試してみることをおすすめします。
その際に注意しなければならないのは、育成者の許諾を得る必要がある品種登録された品種かどうかです。
扱う品種が自家採種の制限の対象かどうかは、事前に農林水産省のWebサイトで確認することができます。
なお、F1品種を自家採種するとバラバラな性質となり、生産や出荷に支障をきたします。
品種改良に近い技術が必要となりますので、自信がつくまでは手を出さない方が良いでしょう。
「買った方が安い」という観点から見ると、確かに自家採種すると手間暇がかかります。
安定した品質になるまでには早くても3年以上はかかりますから、根気が必要です。
しかし、時間をかけて良いものが育ったときの満足度や楽しみは、それ以上のものがあると思います。