房総半島の太平洋側で米づくりを10年続けています。
私の住む場所は中山間地域なので、平地もありますが、山間に位置する農地が多くあります。
私が耕作している田んぼの総面積は約3.5町歩ですが、あちこちに分散されているので、一番離れている田んぼは家から4km近くあります。
農地中間管理機構を通じて農地を借りたりもしているため、請負耕作を行う農家仲間の間では集約されている方だとは思いますが、付き合い上、どうしても断れなかった山間部の田んぼも少なからず引き受けています。
そういった田んぼは米の収量も平地に比べてあまり良くなく、とりあえず管理するだけの状態。
行政からのすすめもあって、農家仲間では農地の規模拡大を進めようという志向が強まっているのですが、私は正直採算性の低い田んぼは地主に請負を断りたいと考えています。
ただ、周囲の目が気にかかってなかなか言い出せません。
よい打開策はないものでしょうか。こうした中山間地域の条件の悪い田んぼでも、耕作を支援してくれる補助制度みたいなものがあれば、考え直してもよいかなとは思いますが、ぜひアドバイスをお願いします。
(千葉県・木嶋慎二さん/仮名・40代)
A.B.先生
農業経済学が専門の大学の名誉教授
地域の皆で考える場を設けましょう
事情を話して返還して、その分、近くで規模拡大、この方向が良いでしょう。
同じ集落内の場合、農業委員会に相談し、誰かと交換できないか、他に引き受け手がいないか、聞いてみてください。地主さんには農地中間管理機構に相談されることをすすめてください。
米を作り、水田を維持することは大いに期待されることなので、地元で誰か引き受け手を探すか、あるいは、他の水田を探して、まとめてメリットが出るようなことができないか……。
地域の皆で考える場を設けることが重要です。それでもだめなら、言い出しにくいとは思いますが、農地を返納するしかありません。
田中克樹
農と風土の学び舎
条件の悪い田んぼでも主食用米以外へ切り替えで高収益は望めます
米づくりによる収益を最優先して考えるのならば、思い切って採算性の低い田んぼは地主さんに返して、もっと条件のよい田んぼを借りるのがよいと思います。
質問者さんは現在も、多くの農地を農地中間管理機構を通して借りているようですが、条件のよい平地でも農地を貸したい農家はたくさんいます。
同機構に相談すれば、多少遠くなるかもしれませんが、借りるのは十分可能だと思います。
その場合、現在、借りている田んぼについては、同機構や農業委員会を通じた契約による貸借であれば、契約期間中は頑張って耕作し、その後は更新をお断りする形になります。
口頭での約束の場合は、勇気を出して地主さんに事情を説明し、お断りするしかないと思います。
とはいえ、質問者さんの場合は、米づくりをもっと効率よく行なって収益を上げたい反面、自分が耕作をやめてしまったら条件の悪い田んぼは借り手がないのではという心配もお持ちのようですね。
そうした責任感を感じていらっしゃるならば、例えば外の地域からの出作という立場で、条件の悪い田んぼの耕作を維持していく方向で腹を括って考えてみるのもありかと思います。
耕作放棄地が増えつつあるなか、国や地方自治体でも、地域住民や農家による共同活動に対して支援を行う「多面的機能支払交付金」の制度や、中山間地域の農業・農村の振興を図っていくための幅広い活動を支援する「中山間地域等直接支払交付金」などの施策を展開しています。
お住まいの地域で、こういった活動を行っている組織のリーダーに相談してみるのはいかがでしょうか?
これらの支援策の一環として行われる、水路や農道沿線の草刈りや補修などへの作業には、必ず時間に見合った日当も出されますので、こうした制度も活かして地域の方々と農地を維持・管理し、さらに有効に活用していく方策を見つけてはいかがでしょう?
米余りの状況が続く現在、国や地方自治体では、例えば飼料用イネであれば、産地交付金などの助成金を出して、主食用米以外の作目への切り替えを推進しています。
千葉県ならば、家畜飼料用の稲や、子実だけ収穫するトウモロコシ、日本麺用小麦「さとのそら」などの人気品種、菜種や菜花、ソバなど、中山間地域でも取り組みやすく、米より収益が上がる可能性の高い作目があります。
ひとりで取り組まれるのが不安であれば、地域の農家の方々にも呼びかけて、集団化を図る方向で進めてみたらいかがでしょうか。
そのために新たな機械や施設を整備する際には補助金が出る場合もありますので、まずは役所や関係機関に相談してみてください。