宮崎県で800頭近くの黒毛和牛を肥育しています。私を含めて従業員は4人です。
このコロナ禍で、従業員から陽性者や濃厚接触者と認定されるスタッフが出たりして、私以外の3人がしばらく作業ができない時期がありました。
私は濃厚接触者と認定されずに済みましたので、この間はひとりで作業しましたが、ふだん3~4人がかりでやっている作業をひとりでこなすのは、決して楽ではありませんでした。
私が牛舎を構えている地域は、他にも多くの肥育農家がおりますので、事情を知った仲間の助けもあって、何とか事故もなく作業ができたところです。
そこで考えたのですが、今回のようなケースだけではなく、ほかの農家でも急な病気やケガで一時的に牛の世話がみられなくなって困るケースがあるのではないのでしょうか?
そうしたときに、地元の肥育農家同士で助け合いできるコミュニティがあったら良いのになあ……と考えています。
肥育農家には酪農のようなヘルパー制度がないので、このようなコミュニティがあれば、急な病気やケガでも安心できるのではないかと思います。
コミュニティを作るときの注意点や、他の地域ですでに行なっている事例などがあれば参考にしたいので教えてください。
(宮崎県・山下昇二さん/仮名・30代)
宮崎県JA都城 和牛生産課 繁殖担当
宮崎県JA都城 和牛生産課 繁殖担当
農協未加入者が有志会員を募って、肉牛ヘルパー制度を立ち上げようという動きがあります
私どもが管轄する都城エリアには、和牛繁殖農家が1033軒あり、和牛ヘルパー組合は12支部存在しますが、熱心に稼働しているのは三股町にある1支部だけです。
ヘルパーを利用したい場合は、まずは調整役である農協の事務局に申し込んだうえで、ヘルパーグループのリーダーが要員のシフトを組むようにしています。
三股町はヘルパー制度が活発に稼働していますが、他の地域では稼働が難しくなっています。
その背景には、昔と比べて生産規模が大きくなっていることが挙げられます。
かつては1戸の飼養頭数は平均して5頭と少なかったのですが、現在は大型化していて20頭というところがザラです。
そうなると、自分のうちの牛の世話でさえ大変なのに、他人の牛の面倒を見てる余裕がないのが実情です。
酪農ヘルパーの場合は、専業のヘルパー要員がおりますが、肉用牛の場合は専業で給料が払えるような余裕がありません。
しかし、相談者のように800頭という大規模肥育農家であっても、週に1回、月に1回の定例の休みは欲しいもの。
いずれは組織づくりをやっていかなければならないと思っています。
ご相談者さんが地元農協に加入しているかどうかわかりませんが、まずは農協に相談してみてください。
ただ最近では北諸県郡農業改良普及センターで、農協未加入者が有志会員を募って、肉牛ヘルパー制度を立ち上げようという動きがあるようです。
加藤武市
加藤技術士事務所
肉用牛ヘルパー制度は、畜産協会のもとで実施されているので、地元の畜産協会に相談してみましょう
「コロナウイルスの濃厚接触者になり、しばらく作業スタッフが足りない時期が続いた」というのは、ご相談者さんのケースに限ったことではないのでは…と懸念しています。
例えば、地震などの自然災害が起きたときのことを、ふだんから考えておく必要があります。
大規模経営ともなると、毎日の飼養管理作業が大きな課題になります。
今回の「コロナ禍で、規模拡大した肉牛経営でいかに乗り切るか?」が、若手経営者の手腕が問われます。
ところで、全国肉用牛振興基金協会によると、肉牛にも酪農ヘルパーと同様、高齢農家や急病、冠婚葬祭時に作業を助けあう「肉用牛ヘルパー制度」があり、全国28道府県で184組合、2万1000戸の生産者が加入しています(基本は農協加入者)。
このうち組合数が多いのは、鹿児島(26組合)、宮崎(24組合)、長崎(20組合)と九州が中心です。
肉用牛ヘルパー利用組合の設立は、地域段階で、市町村単位の単協単位あるいは複数市町村の広域農協単位に設立されるものとしています。
事業を運営する実施主体は、都道府県の畜産協会になりますので、まずは相談者さんがお住まいの地元の宮崎県畜産協会に相談してみてください。
畜産の盛んな宮崎県ですから、新たな発想で頑張っている仲間もいるのではないかと思います。
「地元の肥育農家で助け合いのコミュニティを作りたい」という発想を実現する取り組みが大切です。