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観光客が農道に入ってくる!私道なので通行料を取ってもいい?

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観光客が農道に入ってくる!私道なので通行料を取ってもいい?

私は群馬でウメ農家をしています。梅の花が見ごろの時期になると、私のウメ畑の近くにある広場を会場にして自治体が「梅祭り」を開催しています。

しかし、その祭りの前後になると決まって、私が個人で整備した舗装済の農道に、観光客が車で侵入してきます。

隣接する畑の農業仲間には「私道だけど通っていいよ」と言ってありますし、面倒なので入り口にゲートも設置していません。ですが、梅を鑑賞する目的で訪れる人は何をするか分かりませんし、勝手に入ってほしくありません。

でもなかなか防ぐ手立てがないので、発想を転換して、通行料を取って車に乗ったまま観梅できるようにしたいと思うのです。こいったことを勝手にやっても法律として問題はありませんか?
(群馬県・鳥羽さん・40代)

岩崎紗矢佳

弁護士

通行料を取ることはできると考えるが、他のリスクへの配慮も必要

ご相談内容によると「畑を管理するために個人で整備した舗装済の農道」とのことですので、土地改良法にいう「農道」ではなく、また「隣接する畑の仲間には『私道だけど通っていいよ』と言ってあります」とのことですので、相談をいただいた時点では、不特定多数の者が通行する場所(一般交通用に供する場所)ではなく、道路法その他の法律では道路と判断されない私有地であるという前提でお答えいたします。

結論を申し上げますと、私有地として通行料を取ること自体は可能と考えます。しかし、その場合には、事前に通行料の金額の相場をよくお調べになるのが良いと思います。

そのうえで、徴収に係るコストが通行料で賄えるかなどをよくシミュレーションし、祭り関係者や周辺の農家仲間、住民の皆さんと協議しながら慎重に判断する必要があるでしょう。

また、たとえ車に乗ったままの観梅を促したとしても、通行させた観光客が「畑に入る」「梅の枝を折る」といった行為をしないとも限りません。

さらに、農道の管理不足(舗装の不備等)などが原因で事故が起きた場合には、農道の所有者として責任(損害賠償請求等)を問われる可能性があります。

通行者にのみ原因がある事故の場合には農道の所有者としての責任は問われないとしても、事実上、その事故処理への協力などが要請される可能性もあります。

このように通行料を取ること自体は可能と考えますが、通行料の相場だけでなく、通行料を取った場合に起こり得るリスクや負担などをよく勘案して、ご判断されるのが良いと思います。

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後藤健太郎

日本交通公社観光地域研究部 地域戦略室 主任研究員

負の影響の低減策に留まらず、地域一体となって考えてみましょう

今回の場合、質問者が所有する農道(当該農道)の置かれた環境や、それが設置された経緯、それから周辺の農家の方々との関係等も踏まえたうえで、具体的な対応策を関係者の方たちと協議しながら個別に検討していく必要があると思われます。

そのためにもまずは、質問者が感じている問題がどのようなものかを3つの問題に分けて、それぞれの対応策を考えてみたいと思います。

ひとつめは、当該農道の「祭り開催時」ではなく「祭りの前後の時期」の観光客の来訪についてです。質問者は、「祭りの日の前後には、日常生活を脅かされることなく安心して暮らしたい」と感じながらも、「きれいに咲く梅の花を多くの方々と鑑賞し、共有したい」、そしてそれは「梅の産地としてのイメージ形成にもつながる」と感じているのでしょう。

だからこそ、「“特別な日”には一般の方も観梅できるように」と、当該農道を開放しているわけです。

その“特別な日”のひとつが「祭りの日」だとすれば、まずは祭りの主催者と協議して、祭り以外の日の使用を控えていただきたい旨を、祭りを告知しているホームページやSNSなどで明確に発信してもらい、観光客にアプローチする策が有効だと思います。

またその際、周辺の農家に加えて、地域内で営業されている軽食販売店舗やウメ直売所とも協議しながら、「祭りの日」以外の当該農道の一般通行を控えていただきたい旨を知らせていくという対応策も考えられます。

2つめは、観梅時における観光客のマナー違反についてです。観梅時におけるマナー違反は、観光対象であるウメに対するものと、周辺住民の生活に対するものの二つに大別されると思われます。

前者に関しては、写真撮影のためにウメ畑の中に踏み入る、ウメの木の下で宴会をする、ウメの樹木に触るといったものです。これらは、樹木そのものに影響を与えてしまうというものです。

また後者に関しては、路上駐車によって生活の移動や農作業に支障が出る、営農の場である圃場や農道、生活空間に飲食などのゴミを置いていく、周辺住民の生活の場(私有地内)に踏み入る、普段は落ち着いた雰囲気の集落内で騒いでしまうことで住民の落ち着いた時間が無くなるなどが挙げられます。

これらのマナー違反はさらに、観光客の無知、無理解に起因するものと、自分勝手な行動によるものの二つに分けられます。

そして、マナーの良くない観光客がマナーの良い観光客の体験価値までを損ねてしまう恐れもあることから、何かしらの措置を講じていくことが大切です。

そのためにも、駐車場などの起点(拠点)となるところで、祭りの主催者側が直接啓発するか、あるいはマナーに関する看板を設けるといった対応を取るのが現実的でしょう。

そして、手続きを経て当該農道の入口に看板を立てて明示することも一つの策だと思います。

その際、観梅者が生産物などを購入する人である可能性があることも考慮すると、「顧客との長期的な関係構築」の視点から、観梅・鑑賞を妨げないように配慮することが望まれます。

最後に、観光客の農道への過度な流入・集中についてです。仮にマナーが良いとしても、多くの観光客が押し寄せることによって、農道が埋め尽くされれば住民の移動や農作業に支障が出たり、農道からあふれた観光客が圃場に入ってしまったりするという問題が生じる恐れがあります。

この場合、観光客の数(量)を制御する対策が必要となります。そしてこの対策は、圃場や周辺住民だけでなく「観光客の安全を守る」という視点からも重要です。

具体策としては、祭り当日は時間帯ごとに来場者数を分散させる(特定の時間帯に集中させない)ために、例年の状況から推測して、催しの時間を決めると良いでしょう。また、催しの会場を複数設ける、当該農道以外の利用率が高くない道を案内する、といったことも考えられます。

もちろんその場合は、当該農道以外に好ましくない影響を広げることがないように、観光客の行動変化を見ながら最適な状態を模索していく必要があります。

またここまでで挙げた策の他に、農道の車両通行を禁止したり制限したりといった措置を取ることも考えられますが、どちらも農道の管理者との十分な調整・連絡が必要となります。

今回の問題を「ウメ農家としての生計」や「ウメ産地としての地域戦略」という枠組みの中で捉えるなら、現在起こっている問題に対処することに留めるだけではなく、どのような観梅の仕方が望ましいのか、なぜ観梅してもらうのか、観梅者が営農支援者(応援者)になってくれるのかなど、負の影響の低くするだけに留まらず、好影響を与えるような観梅のあり方を、周辺のウメ農家の方や祭り関係者とともに考えてみることが望まれます。

長い年月を掛けて育ててきたウメの樹の価値やウメ農家の方たちの想いを知ってもらう、理解につなげていくという視点から対応策を検討してみてはどうでしょうか。

そうする中で、期間限定で予約者のみにウメ畑を公開する、ガイドサービスを提供する、といった付加価値的なサービスも考えられるかもしれません。

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