千葉県のトマト農家(50代)です。
私が若かった時代には考えもしなかったのですが、インターネットで検索したところ、最近の若者がデートをする場所の選択肢のひとつとして農場見学があるようです。
私の農場でも就農希望者さんや若手農家さん、レストランさんからの「農場見学」は受け入れていますが、デートとしてやってくる若者カップルを見たことはありません。
決して営利目的というわけではないですが、私の農場も若者カップルのデートスポットとして選択肢としてくれたら、若者の皆さんの情報発信力により結果的に農場のアピール、認知度アップにつながるのではないか?と思い始めました。
そこで、若者の農業デートコースとして選ばれるための農家なりの工夫やサービスが知りたいです。
ロマンティックなシチュエーションをつくるなどですかね?
農業とロマンティックをつなげるとは、結構難しいことだと思うので、それ以外の要素についても知りたいです。
また、デートスポットとして成立するようになった場合のデメリットについても教えてほしいです。
(千葉県・増岡良男さん/仮名・50代)
小川繁幸
東京農業大学 准教授
農村空間を演出して非日常をプロデュースしよう
田畑がデートコースとして選ばれるためには、空間演出が重要です。思い出に残るデートとして、「そこにしかない」「写真が撮りたくなる」、つまり「映(ば)える空間」であることが必要なのです。
都市圏の若者にとっては、田んぼそのものがアートであり、新鮮です。とはいえ田んぼや畑はどこも似たような風景なので、長い時間見続けていると飽きてしまうし、写真を1枚撮影したら終わりのおそれもあります。
裏を返せば、何枚も撮影したい要素を取り入れることができたら、デートコースとして成立するのです。
海外では農村に避暑地、バカンスの場としての機能が求められているので、とても素敵な空間演出がされています。
畑で食事する際にも、テーブルや食器、あらゆるものにこだわっています。フランスでは、農村に滞在する際の体験プログラムとして、釣りや乗馬、ワイン工場見学などさまざまなイベントが用意されていますので、そのような工夫は、ぜひ参考にしたいもの。
また、光や音の演出も大切です。蛍の光、楽器の演奏など、自然とスペースに恵まれている農村・圃場だからこそできる演出はたくさんあるはず。
ただし、外部の人が圃場に入るのは、地域や関係者との調整も必要ですし、経営の観点からも、衛生管理や生産性を考えなければなりません。そこで、農地を用途別に区分(ゾーニング)して、特定の場所を、体験型観光の場として活用するのもひとつのアイディアです。
また、軍手や長靴などの備品は主催者側が用意した方が良いですね。手ぶらで参加できるような気軽さがないと、デートが楽しみにくくなります。
もちろん食事も地産地消にこだわって、ランチボックスなどは、持ち帰りたくなるデザインにすると、良い思い出になりますし、女性には好評だと思います。
農家に身につけてほしいのは、農作物を素敵な空間を演出するための景観作物として見いだす感性です。農家は空間を作っているという点で「クリエーター」だと思います。
農作物に、食べ物だけではなく、景色という新たな価値を創造していただきたいのです。
私自身も農村の空間演出に取り組んでいます。いろいろな農家が素敵な空間づくりにチャレンジされていますので、ぜひ参考にしてみてください。