九州で養豚業を営んでいる56歳です。畜産関係の組合に加入しています。以前から組合と協働で食農イベントを開催して、豚肉のPRや販促会を行ったり、ベーコンやソーセージなどの加工品開発などに挑戦してきました。
最近になって組合の理事、組合員の一部から「従来の組合経営を継続するのは難しい」という声が聞こえるようになりました。
組合を設立した当時のベテラン会員と新たに加入した若手の足並みが揃わず、さらに「豚熱(豚コレラ)の感染拡大」や大豆ミートなどの代替肉のニーズが増えたこともあって、養豚経営は日増しに苦しくなってきています。
コロナ禍で会員同士が顔を合わせる機会も減っています。話し合いの場が減り、会員同士の不協和音が目立つなか、このままだと組合加入のメリット、デメリットのバランスが崩れてしまうのではないかと心配です。
養豚仲間の共同意識が薄れた結果、組合自体が空中分解してしまうことを懸念しています。打開策はあるのでしょうか?
(九州地方・野方さん/仮名・50代)
加藤武市
加藤技術士事務所
業界の問題は、地域全体で解決すべき課題だと認識しましょう
私が一般社団法人「県畜産協会」に5年間勤務していた時に、畜産関係機関(農林総合事務所、畜産試験場、家畜保健衛生所)や野菜などの生産組合、異業種との連携により生産組合の活動を活発にしたことがありました。
その時の「ブランド豚の生産振興に取り組み、生産組合の活動に加わった経験」や「生産組合が独自に行った実例」をお話ししますね。
2004年当時、養豚農家は自然交配しているところが多かったのですが、これだとオスの能力により受精率が不安定だったので、全て人工授精に移行し、生産組合長の指導で、組合全体の受精率を高めるなど、技術向上に努めました。
そのうえ、当時は食品リサイクルの取り組みとして「エコフィード」と呼ばれる食品残渣を肥育豚に与えている生産組合がほとんどでした。多くは、パンの耳、ポッキー屑、菓子屑などを与えていました。そこで、オレイン酸の含有比率を高めるために肉質を改善しようと、畜産試験場に飼料配合の設計や分析をお願いしました。
その結果、美味しく(オレイン酸が高い)、サシ(脂肪交雑)が入った付加価値の高い豚肉生産を実現しました。パン屑を大量に与えると、筋肉内の脂肪が増加し、それは必須アミノ酸であるリジンが不足しているのが原因だと判明しました。
また、日本酒の有名銘柄の酒粕を餌として与えたところ、豚がほろ酔い状態になって、よく眠るようになります。ストレスが軽減された豚の肉質は、臭みがなく、柔らかい肉質と上品な甘味の脂身になることも分かりました。
さらに、福井県教育委員会の協力を得て、生産組合で作った豚肉を学校給食に採用してもらいました。地元の小学校では、生産者が出張講座を行なって、豚に関する食育活動を行うなど、地元食材に対する理解を深めてもらうための「地産地消教育」をすすめています。
福井県ではこういった取り組みを通じて、学校給食における地場産物を使用する割合30%以上を目指しています。
また、福井県の北部に位置する「あわら市富津地区」のサツマイモ農家とも連携を始めました。ここでは「とみつ金時」というブランド芋を生産販売していますが、どうしても約10%が規格外として廃棄されています。そのうえ、イノシシによる獣害の深刻化で、耕作放棄地の増加の問題がありました。
そこで、規格外のサツマイモを飼料として有効利用することで、2017年にはここで育てた豚のブランド化を目指して「とみ金豚放牧プロジェクト」を スタートしています。
耕作放棄地に豚を放牧すると、豚の存在や人の往来によりイノシシも豚の放牧地を避けるようになるという成果が見られました。ただ、あくまでもイノシシは豚と同種なので、発情期を迎えるとメスがオスを引き寄せてしまうというデメリットも認められています。
このプロジェクトでは、早く育てて体重を増やす餌ではなく、サツマイモを多く取り入れているので、豚の体重が順調に増えるか心配していましたが、とみ金豚は予想に反して生後8ヶ月で160キロを超えるという効果が確認されました。
一般的な出荷時期より肥育期間を長くして出荷しているので、豚を大きく育て、飲食店に直接販売できるのではないかと期待しています。
この取り組みでもいくつもの困難がありましたが、諦めてしまえば、そこで終わりです!業界が抱えているさまざまな問題を解決するために、いろいろな組織を巻き込んで、地域全体で解決すべき課題だと認識することで、生産者同士のつながりも強まります。
他の分野の人たちとも交流することで、地域全体で取り組むべき問題だとして、ぜひ解決するための原動力にしてみてください!私も応援しています!