宮崎県で養豚場を経営しています。
飼育頭数は、種豚、肉豚含め1000頭ほどです。
豚舎は肉豚舎、繁殖豚舎、子豚豚房、種雄豚舎、検疫豚舎を設けてそれぞれ飼育しています。
ここ数年、豚コレラや豚熱対策のために家畜保健所や共済から、養豚場の消毒の徹底を促されるようになりました。
現在行っている消毒は、作業員が踏む消毒マットの設置、噴霧器で養豚場の消毒、養豚場前に石灰を撒く等です。
消毒マットの設置は簡単ですが、噴霧器での消毒や石灰を撒く作業は重労働であるため、作業員1人の午前中の時間が潰れてしまうこともあります。
噴霧器や石灰の散布は、2日に1回必ず行い、来客や出荷作業がある際はその都度消毒をしなくてはいけません。
豚熱やコレラに関わらず、養豚農家では疾病対策が重要になるので、消毒作業は続けていく必要があると考えています。
重労働や長時間作業である点が解消できればいいのですが、このような消毒作業を簡単にする方法はないか、ぜひ教えてほしいです。
(宮崎県・田代尚樹さん/仮名・40代)
三宅眞佐男
アニマル・バイオセキュリティ・コンサルティング株式会社
豚舎消毒は簡単に済ませる方法などが無いのが現状です
農場へ出入りする車両の制限や、タイヤや車両全体の消毒や、通行場所への消石灰の散布は基本ですが、それ以外にも、菌やウイルスを持ち込む可能性がある部外者の入退制限や豚舎間の移動時に靴を履き替えたり、長靴を消毒液が入った槽で洗うなど、細かく定められています。
つまり消毒は時間がかかる作業なのです。
時間をかけて消毒しても全ての病原菌はなくせませんし、極論すれば「簡単に済ませる方法」などは無いのが現状です。
まずは農場へ出入りする車両や人の防疫対策などや、イノシシなどが侵入できないように防護策を設置したり、ネズミの抜け穴を塞ぐなどといった基本の対策を徹底し、豚舎や飼料保管庫などの衛生管理区域を他の場所と区分するなどといった設備の見直しをおこなってください。
さらに最低限用意していただきたい消毒薬として、消毒効果の段階別に以下の消毒薬をおすすめします。
1つ目は、消毒効果が高い「高水準消毒薬(グルタルアルデヒド製剤、過酢酸製剤など)」。このうち、グルタルアルデヒドは古くからある製剤ですが、近年、環境毒性や人への危害が報告されており、医療分野では、内視鏡の消毒などを担当する看護師がアレルギーを起こす労災事故が何件も発生していたことから、厚労省局長の通達で、過酢酸製剤かフタラールへの変更が通達されています。
こういった状況にもかかわらず、畜産現場では使用濃度は薄いものの、防護マスクをつけないで畜舎内や車両消毒に使われている場面が多く、作業者に薬剤がふりかかるリスクが指摘されています。
このため2016年以降は、安価なうえ、気温10度以下でも効果がある過酢酸製剤の使用が普及しています。ただ、過酢酸製剤は酢酸の匂いがすると、金属にサビが出やすいデメリットがあります。一方、先述のグルタルアルデヒドは、匂いもせず(わざわざ良い香りをつけている製品もあります)、金属にサビが発生しないという特徴があります。私自身が、高水準消毒薬を紹介する際には、両方のメリット、デメリットを説明してユーザーに選択してもらうようにしています。
2つ目は、一般細菌、結核菌なほとんどの真菌とウイルスに効果があるが、芽胞細胞には効果がない「中水準消毒薬(次亜塩素酸ナトリウム、複合塩素剤、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、ヨード系製剤、アルコールとアルコール含有製剤、消石灰乳、オルソ剤など)」。
3つ目は、ほとんどの一般細菌、特定のウイルス、一部の真菌を殺滅する「低水準消毒薬(塩化デジシルジメチルアンモニウム(DDAC系逆性石けん液など)」です。
冬場や予期せぬ病気が起こった場合の備えとして、上記のような高性能な消毒薬を用意しておくことをおすすめします。
だからといって、農場のあらゆる場所に高水準消毒剤を使う必要はなく、衛生管理基準が高い場所を中心に使うことをおすすめします。
時間をかけてもすべての菌をなくすことはできませんし、何度も繰り返し実施することが必要です。
以下に、家畜衛生学会誌に発表した際の薬剤の比較表を添付しておきますので、参考にしていただければ幸いです。
幸嶋健一
株式会社いけうち アグロ事業部 大阪営業所
噴霧ユニットを使うと手間が省けますが、まだ養豚業界での導入効果などは持ち合わせていないです
Dry Fog HIGHNOW (除菌洗浄システム) という製品は、畜産業界でよく使用されている動力噴霧器を使った類似の薬液散布製品に比べ、粒度が小さく霧の気化が早いため(液にもよる)、サビのリスクが少ないことと、加湿効果による呼吸器疾患リスクの減少が期待できます。
粒子が細かいために噴霧後に拭き取り作業をする手間が省けるのも一つの特長です。
また、移動式のDry Fog STANDという製品もあります。こちらは、上のDry Fog HIGHNOWよりもさらに細かい霧を出すタイプです。
消毒剤噴霧の実績についてのご説明ですが、まず、養豚業界での実績がまだ数える程度でして、具体的な導入効果などは持ち合わせておりません。
作業者の労働負担軽減につながる常設タイプの設備として、CoolPesconという製品もあります。
夏場の冷房、冬場の加湿、消毒液噴霧による消毒目的の1人3役、タイマーと温湿度制御により自動運転が可能、湿度の上がりすぎも防ぎます。
給水もすべて自動ですので、手がかかりません。
この製品が、3つのうちで作業者負担は最も少ないですが、すべてにおいて養豚業界での消毒効果を保証するものではないです。