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養豚業を息子に継がせたいが、飼料の高騰が続き不安です。将来やっていけるでしょうか?

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養豚業を息子に継がせたいが、飼料の高騰が続き不安です。将来やっていけるでしょうか?

夫婦で繁殖から出荷まで一貫して行う養豚場を経営しているのですが、妻も私ももうすぐ70歳になるので、そろそろ息子に後を継いでもらいたいと考えています。

息子はいま30代後半ですが、高校、大学で畜産を学んでおり、卒業後はうちで家業を手伝ってくれています。

しかし事業を引き継ぐとなると「果たして養豚業で将来食べて行けるのか?」ということがいつも気になってしまいます。

もし豚の販売収入が飼料代などの生産コストを下回った場合には、生産者が交付金をもらえる「肉豚経営安定交付金制度(豚マルキン)」があります。

そのため、すぐに倒産することはないでしょうし、親しくしている肉問屋さんにも「豚マルキンがあるから、高く買わなくても大丈夫でしょう?」などと言ってくる人もいます。

しかし、このまま輸入飼料の価格高騰が続けば、息子の代にはさらに厳しい状況になるのではと心配ですし、交付金をアテにしなければならない業界に、あとを継がせていいものか不安は募るばかりです。

(栃木県・富田さん/仮名・60代)

早川結子

イデアス・スワインクリニック 養豚管理獣医師

大切なのは気持ちを息子さんに率直に伝えて、息子さんがどう決断をしても受け入れることです

事業継承について迷われているとのこと。大事な家業、大事な農場ですから、できれば息子さんに継いでもらいたいというお気持ち、よくわかります。

でももし養豚業がこの先大きな不振に見舞われたら、息子さんに負債や苦労を負わせてしまうのではとのご心配も、大変よくわかります。

どのような仕事にも言えることですが、「絶対安心」はありません。

未知の疾病が発生したり、未曽有の災害が発生したり、世界情勢は不安に満ちています。

そのようななかで「豚マルキン」はアテになるのか?

結論からいうと、アテにすべきではないと私は考えます。

理由のひとつめは、制度の限界です。

ご存じの通り、「豚マルキン」の制度は、「標準的生産費」を「標準的販売価格」が下回ったときに、その差額分の9割が支払われるというものです。

財源は、4分の1が生産者の積み立てから、残りの4分の3が国費から賄われ、算出は四半期終了ごとに行われます。

ここで注意したいのは、「当該四半期に交付金の交付がなかった場合には、当該年度内において次の四半期に通算して算出」される点です。

例えば、第一四半期が販売価格が生産費を上回った場合、当然交付金はありません。

次の第二四半期で販売価格が生産費を下回っても、第一四半期と第二四半期とで通算されるため、第一四半期の利益で第二四半期の損益が相殺されれば交付金は結局、出ないことになります。

交付金が出ない四半期が続く限り、年間を通じて通算は続けられます。

つまり、交付金は、「赤字が大きい、しかもそれが続く」場合にしか出ません。

お金の流れには時差がありますから、出たとしても資金繰りは苦しい状態になるのが必至でしょう。

また、「標準的な生産費」が自分の農場の生産費に比べて安かった場合、自分は赤字なのに国の算出では赤字とみなされないこともあります。

反対に、「標準的販売価格」に対して自農場の販売価格が下回れば、やはり自分は赤字なのにマルキンは発動しません。

国のいう「標準」生産費と「標準」販売価格を提供する農場はどのような基準で選ばれているかはよくわからず、成績の良い農場ばかりだという人も少なくありません。

「豚マルキン」を取り扱う農畜産振興機構の公表資料を見ると、「標準的な生産費」は3万3000円前後で推移しています。

豚価でいうと、税抜きで約431円、税込みで約474円です(標準生産費は、2022年は飼料高で確実にもっと上がりますが)。ご自身の農場の損益分岐点と比較していかがでしょうか。

以上のことを考えると、肉問屋さんの「豚マルキンがあるから高く買わなくても大丈夫でしょ?」という考えは間違っていると言えます。

一見赤字が出たら必ず補填されるように聞こえますが、そういう仕組みではありません。

常に生産コストを下げ高く売る経営努力をすることが前提であり、(少なくとも「標準」農場よりも優秀な経営をしていなければならない)また交付金があったとしても経営危機を乗り越えられるかどうかはわかりません。

ふたつめの理由は、制度の安定性です。

事業継承するかしないかという長期的な決断に際して、現在の法整備の中に存在する交付金はアテにできないと思います。

現在進行形の経営者として目前の設備投資をする際には、事業計画の中に「豚マルキン」を入れますが、それは現在発効している法律を判断材料にするしかないからです。

この先、法律がどう変わるかわからないことと、単純に「無い袖は振れない」ということを考えざるを得ません。

要するに、財源が無ければお金は出ません。

ご存じの通り、畜産業界は国内での特定伝染病(鳥インフルエンザ、豚熱)の相次ぐ発生によって国の畜産予算は大変厳しくなっていると聞きます。

今後大きな赤字が出た場合、現在の決まり事通りの金額が出るのか、どこにも保証はありません。

みっつめの理由は、経営者になるかならないかを決めるのは、セーフティネットの有無ではなく、ご両親でもなく、ご本人だということです。

経営者になるということは、本人が全ての責任を負うということです。

どのような農場を経営したいかというビジョンと、全ての責任を負う覚悟。
このふたつは、息子さん自身が考え決めることです。

相談者さまのご年齢から推察するに、息子さんは働き盛りでご家族もあるかもしれませんね。

人生の大きな決断になるのは間違いありません。どうか相談者さまにも息子さんにも、悔いの残らない選択をしていただきたいと、強く思います。

ここで大事なのは、息子さんご自身が考え、決断を下すことではないでしょうか。

相談者さまにできるのは、ご自分のお気持ち(継いで欲しい気持ちと行く末の不安)を息子さんに率直に伝えること、息子さんの決断を待つこと、息子さんがどのような決断をしても、それを受け入れることだと思います。

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伊東悠太郎

水稲種子農家

後継者に現状を伝え、同業者と意見交換できる場を作ってあげてください

事業承継の相談を受けると、「農業に将来性があるか?」という問いは実はたくさん頂戴します。

しかし「将来性があれば継がせる、なければ継がせない」という安直な話ではないと思いますので、私は同様の相談を受けた場合には「将来性はあるかないかではなく、創るしかない」と答えています。

畜産に限らず、補助金に依存しているという指摘は農業界で数多くありますが、それをどうとらえるかも人それぞれです。

私が言いたいのは、諸々含めて「後継者がどう思うか」「後継者がどう判断するか」が判断基準だということです。

経営者である相談者の方から、経営の現状と畜産業界の現状、そして補助金に対する考え方などをしっかりと後継者の方に伝えてあげることが先決ではないでしょうか。

また相談者の方だけでなく、同業他社の経営者からも話せる場を作ってあげて、色々な方の意見を後継者の方に聴かせてあげて欲しいと思います。

いろいろな考えに触れることで、後継者の方の思考の幅も広がると思います。

その上で、後継者の方にどうやってバトンをパスしていくのか、つまりどんな事業承継計画を作成していくのが最良なのかを考えていくと良いのではないでしょうか。

その作成過程でも、いろいろと考えをぶつけ合っていくことが大事です。

かくいう私も、実家の事業を継ぐときに、言葉にはできないくらい悩み苦しみました。

我が家の経営規模は小さく、お米が余っている日本では水稲種子の需要も減少していきます。

安定したサラリーマン生活からその世界に飛び込むことに対しての不安を感じたのはもちろんのこと、家族からも反対されるなど、本当にいろいろなことがありました。

しかし、すべてを背負った上で「継ぐ」という決断をしました。

後継者の方の悩みや葛藤に寄り添ってあげること、どういった農業経営をしたいのかを聴いてあげることが、経営者である相談者の方の役割ではないでしょうか。

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