祖父の代から続いており、70年ほどの歴史がある梨園の3代目です。梨は豊水を中心に日本梨を育てています。
しかし、ここ数年ほど生産量が目に見えて落ちてきています。梨の木の寿命は40〜50年ほどと聞きますし、きっと梨の木が老木化してきているからだと思います。
寿命は仕方ないのかもしれませんが、植え替えも計画立ててやってこなかったので、一気に収穫が減少してしまいそうで心配です。
なんとかして梨の老木化を遅らせつつ、並行して植え替えを進めていくことを考えています。
少しでも長く梨の木の寿命を伸ばし、生産性の減少をできるだけ食い止める方法を教えてください。
(群馬県・小林さん/仮名・60代)
橋本哲弥
橋本梨園
「計画的な改植」と「老木の取り扱い」を組み合わせ、支援制度も活用しましょう
質問内でご自身でもおっしゃられているように、計画的な改植をおこなわなかったのが生産性低下の最大の原因です。
今冬からでも苗木を購入・育成し、改植の段取りを始めることを推奨いたします。
いろいろと事情はあったかと思いますが、今後のためにも心に留めおいて頂けますと幸いです。
さて反省すべきことは反省して、現実的な対策をしなくてはいけません。
梨園の老木の具体的な樹齢はわかりかねますが、おっしゃるとおり延命措置を図りつつ、新植の苗の樹冠拡大を急ぐことが最適解だと思います。
そのためにまずは「計画的な改植をおこなう」ことが大切です。改植には「漸次縮伐改植法」と「ブロック抜根改植法」の2つがあります。
「漸次縮伐改植法」は、既存樹(今回の場合だと老木)の間に苗木を植えて、既存樹の樹冠を縮小しながら苗木を育成して、徐々に改植を進めていく方法です。
既存樹でも果実を採りながら苗木を育てていくため大幅な収量減はありません。
しかし既存樹での収量を求めすぎて、適切な側枝の間引きや樹冠縮小がおこなわれず、育成年数の割に新植した苗木が十分に育たないというケースが多く見られます。
苗木に日光が十分に当たらない、根が既存樹と競合し養水分の奪い合いが起きてしまう状態にならないよう注意する必要があります。
「ブロック抜根改植法」は、園地を多数のブロックに分け、そのブロックごとにまとめて既存樹を抜根する方法です。
苗木が既存樹とのあいだで日当たりや養水分の競合がおこらず、よりよい環境で苗木~若木を育成することができます。既存樹の樹間が狭い園では特に有効でしょう。
樹毎の生育が揃い、計画的に改植が進められますが、一度にまとめて抜根をおこなうため収量の大幅減は否めません。
大きな面積を一気におこなうのではなく、10年程度の中長期的な計画を立て、毎年少しずつ改植することをおすすめします。
改植の方針が決まったら、苗木と若木の育成に注力しつつ、老木の延命措置・有効活用を図ります。
1、予備枝を多く設けて樹勢の強化・維持に努める
古い木は樹勢が落ちて、養水分を引き上げる力が落ちています。一側枝に対して一予備枝を配置するように心掛け、先端部まで養水分が行き渡るようにしましょう。
2、収穫量を欲張りすぎない
樹齢の割に着果数が多すぎると、当年の果実が肥大しない、次年の花芽の入りが悪い等の収量減に直結する問題に繋がります。樹勢次第ですが、成木のときよりも着果数を抑えるように心がけ、長生きしてもらえるよう管理してください。
3、次世代の木の生育の邪魔をしない
漸次縮伐改植法の場合は、日光が適切に当たるようにするため、苗木の半径1.5メートルには老木の枝が存在しないように剪定をおこない、段階的に骨格枝は縮伐します。同様に育成中の若木でも既存樹の枝葉が被って日陰にならないようにしてください。
苗木(若木)の樹冠がある程度広がってきたら最終的には抜根します。抜根のタイミングを間違えると、既存樹を抜く際にせっかく育った若木の根も掘り上げてしまうので気をつけてください。
4、返し枝を骨格枝にする
通常は主幹から遠くに骨格枝を伸ばして樹冠を拡大していきますが、その枝が縮伐でなくなってしまいます。
そのため、亜主枝から発生させた側枝を主幹方面に返して骨格枝(主枝)にします。通常デッドスペースになってしまう主幹の真上を有効活用し、収穫量を稼ぎます。
5、助成金を活用する
技術的な対策をいろいろ提案させていただきましたが、現実問題として枝の張っていない若木と老木しか無い状態では、収穫量の減少は否めません。
改植時の経済的面で支援してくれる国の事業があります。ご質問者様が使えるか(要件を満たしているか)一度確認してみてはいかがでしょうか。
その他にも地域によっては改植を支援してくれる補助事業がありますので、JAや農業事務所(普及所)などに一度問い合わせてみることをおすすめします。