約800aの畑で梨を栽培し、2年前から草生栽培にも取り組んでいます。
毎年9月ごろにはお礼肥として樹の根元に、1反あたり1袋(30kg)程度、硫安を手で撒いて、その上に刈った草を敷いて覆土がわりにしています。
翌年も安定して品質の良い果実を生産するために、窒素主体のお礼肥を与えることは重要だと思っています。
ただ、先輩の農家からは「お礼肥だけでなく、もう1回冬に入る時期にもやった方が良いよ」と言われました。
これまではお礼肥で十分だと思っていたのですが、梨の樹には冬肥も必要ですか?その場合、どのような肥料をやるとよいですか?
(埼玉県・金子正俊さん/仮名・40代)
橋本哲弥
橋本梨園
梨の収穫後に施用する礼肥は土中に残らないので、元肥の施用方法がカギを握ります
はじめに、施肥の呼称は品目や地域によって異なるため、本回答では「寒肥」を「休眠期(12~2月頃)に与える元肥」という定義で回答させて頂きます。ご了承ください。
1.「礼肥」と「元肥」の役割の違いについて
礼肥も大切ですが、元肥は植物が生長するための基礎となる肥料です。土壌分析などで養分過多などの診断がされた場合を除き、基本的には毎年施用することをおすすめいたします。
礼肥で用いられる硫安などは水に溶けやすく即効性があり、着果で消耗した樹体をケアするための肥料です。
8~9月に収穫の終わった品種から順番に用いられます。
速やかに吸収されて樹勢回復を促し、ひいては越冬時の耐凍性の獲得や、4月の開花・展葉に必要な養分(貯蔵養分)の蓄積に寄与します。
ただ礼肥は効き目こそ早いものの、土壌中に残りません。貯蔵養分も開花や展葉などに用いられることで徐々に減少し、5月以降にはなくなってしまいます。
ここで役立ってくるのが元肥です。
元肥は礼肥と異なり、水に溶けにくい性質を持っています。
土壌中に中長期的に保持され、土壌微生物などに分解されることでゆっくりと効果を発揮します(遅効性)。
微生物は春以降地温が上がってくると活発に活動を始めます。
貯蔵養分が切れた頃、根が元肥の肥料分を吸い出し、丁度バトンタッチするように樹の生育を助けてくれます。
2.あまりに早い元肥は避ける
一方で近年は元肥の施用を極力遅らせたり、冬と春に分けて行うことが推奨されています。地球温暖化の影響で地温が高くなったため、本来遅効性である元肥が効き始めてしまうためです。
細かい説明は割愛しますが、気温が高く肥料が冬先に効いてしまうと樹体は冬眠の準備に入れません(耐凍性の獲得ができない)。
そのために礼肥は即効性があり、長く効かないものを用いているのです。
その状態で急な低温に遭遇すると、花芽や枝が寒さでダメージを受け、春に発芽不良や枝枯れが多発してしまいます。
特に九州地方で多発しており、南関東でも発生している状況です。
対策として、
・元肥を春(3月)に移行する
・冬と春の二回に分ける
・堆肥や元肥の施用量を減らす……などが挙げられています。
気の早い方は剪定の段取りを考え、11月に元肥を施肥してしまいますが、近年の気候では避けたほうが無難です。
ご質問者のおっしゃる「冬肥」がどの時期を示しているかわかりませんが、冒頭で定義したとおり早くても12月~2月、樹の落葉を待ってから施肥を行ったほうがよいでしょう。
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