私は50代前半、私の両親は70代後半で、これまで一緒に畑を守ってきました。
しかし最近は父も母も体調が良くない日が続いており、引退を考え始めているようです。
もちろん両親は私に農家を継いでほしいと言っていますし、私も両親の後を継いで畑を守っていくつもりです。
そんな現状なので、徐々に事業継承の準備をしていきたいのですが、まず何から始めればいいでしょうか。
親子間の事業継承の場合は相続問題がありますし、役場に出す書類も提出期限が決まっていたりすると思うのですが、複雑すぎてどこから手を付ければいいのかがわりません。
何をどういったタイミングで行うのが適切なのか、スケジュール感が分かるように教えてもらえないでしょうか。
もちろん、やらなければならないことは時と場合によると思いますので、これをしておかないと農家が継げないという「最低限しておくべきこと」を教えてもらえると助かります。
(群馬県・戸塚さん/仮名・50代)
高田裕司
日本プロ農業総合支援機構(J -PAO)上席コンサルタント
じっくりと計画を立てて、人・資産・知的資産の課題をクリアしていくことが大切です
事業を継承する際には、3つの段階に分けて考えるといいでしょう。つまり「準備段階」、「計画段階」、「実行段階」です。
まず「準備段階」では、経営継承の必要性の確認、経営状況・資産の把握(見える化)を行います。
「計画段階」では、いつ経営継承を行い、そのための準備をどのように進めていくのかということを盛り込んだ「経営継承計画」を策定します。
そして「実行段階」では、その計画に基づいて実行し、定期的にチェックして進めていくのです。
いつから開始するかは「いつ継承するのか」からの逆算になりますし、継承にかかる期間はそれぞれの家族の状況に応じて変わってきます。
相続問題については、所有している資産が多くなるほど複雑になりますので、まずは資産を事業用とそれ以外とに区分して把握し、その対策は専門家の力を借りて考える必要があるでしょう。
また役場に提出する書類は、どのようなことを行うのかによって異なります。補助金の利用や事業承継税制の活用などをするなら、締切(=書類の提出期限)が発生しますので要注意です。
また親子間で農家の事業を継承する際には、事業承継を進めるうえで、何がハードルになり、どんな対応をするべきかという点を押さえておくことが大切です。
私は、「事業承継」とは、「人(経営権)」「資産(個人と法人で異なる)」「知的資産」の3つを引き継ぐことだと考えています。
まず「人(経営権)」の継承についてですが、個人事業の場合には事業主を交代すること、法人の場合には代表権を交代することを指します。いずれも誰に引き継ぐのか、つまり後継者を決めることが前提となります。
ただ、「元気なうちは先代が中心になって経営していく(ほしい)」、また「子供には好きな道を歩んでほしいので、農業は自分の代で終わりにしたい」と考えている農家の方が多いため、後継者を決めなければと漠然と考えているものの具体的な計画が立てられず、結果としていつ引き継ぐのかが明確になっていないというケースが多いのが実情です。
「資産」とは文字どおり、事業に必要なさまざまな資産を後継者に引き継ぐことです。
農業の場合は、設備、機械、農地、車両運搬具などの事業用資産があり、場合によっては借入金を引き継ぐこともあります。
農業法人の場合には、事業用資産は法人名義となっていることが多いので、その場合は引き継ぐ必要はありません(代わりに株を継承することになります)。
贈与税や相続税、消費税などの税金も関係しており、事業承継税制などの税金を猶予・免除する仕組みも用意されています。
しかし、素人には税金制度は難しく、よく理解せずに進めることで不利益が生じてしまったり、株式の譲渡に関する定款の規定を変更しなかったことにより第三者に会社を乗っ取られたりするリスクが生じるケースもありますので注意が必要です。
3つめの「知的資産」は、先代(またはそれ以前の経営者)が築いてきた信用や取引先との人脈、生産技術、組織をマネジメントする方法などが該当します。
農家の場合は栽培方法がこれにあたり、最も重要なものと言えるかもしれませんが、それを次世代が完璧に引き継ぐまでには相当な時間がかかります。
また知的資産のなかには、後継者が失敗を重ねながら身に付けていかなければならないものや、ほかの経営者などと交流したり、後継者塾などに通って勉強したりする中で習得していくものもあるでしょう。
これも事業承継計画を練って、それに基づいて進める必要があります。
こちらのパンフレットに継承に関する概要と事例が掲載されていますので、参考にしてみてください。
私たちプロの事業承継士が農家から相談を受けた際には「先代がいなくなると困ることは何ですか?」「先代だけのノウハウを持っていないことはありますか?」といった質問を投げかけて、個々の農家が次世代に引き継がなければならない「知的資産」の中身を知った上で洗い出したポイントを事業承継の計画作りに反映させていきます。
さまざまな側面から農家さんのサポートを行なっておりますので、気軽にご相談いただければと思います。