栃木県の南西部で、季節野菜の露地栽培を中心に、少しですが水稲もやっています。
もともと田んぼにはメタンを作る微生物(メタン生成菌)が住んでおり、人間活動の中から出るメタンガスのうちの約1割が水田から発生していると聞きました。
その中で、この前判断を誤って、まだ雑草が枯れる前に田んぼを耕して水を入れ、代かきをして苗を植えたところ、例年以上にメタンガスが発生してしまったのです…。
田んぼで作られたメタンガスは、稲の茎や根にある空気を通すための空隙(くうげき)を通って大気中に放出されるようですが、メタンガスがたくさん発生したままにしておくと稲の生育に影響がありますか?
収量が少なくなるようなことは避けたいので、いい対処法があれば教えてください。
(栃木県・佐野さん/仮名・40代)
李 哲揆
データサイエンティスト
通常問題ありませんが、酸化還元電位が低いようなら「中干し」や鉄資材の投入が必要になることも
水田の土壌中から発生するメタンガスは、相談者が言うように稲の根から吸収され、茎(空隙)を通って大気に放出されます。
そのため通常であれば収量に影響することはありません。
しかし、今回のケースのように未熟な有機物を大量にすき込んでしまった水田に苗を植えると、有機物が分解される際に土壌が酸欠状態になってしまい、メダンガスだけでなく有毒な硫化水素なども発生して、初期生育が遅れることも珍しくありません。
そうなると収量に影響を及ぼす可能性は否定できません。
もしもガスの発生量を減らしたいのであれば、まず土壌中の「酸化還元電位」がどの程度あるかを測定して、低い場合は上げる必要があるでしょう。
酸化還元電位とは簡単に説明すると、対象とする物質がほかの物質を酸化しやすい状態なのか、それとも還元しやすい状態なのかを示すものです。
その酸化還元電位(Eh)はミリボルト(mV)で表され、「Ehメーター」で測定することができます。
例えば、通気のよい乾田の湛水前の土壌では酸化還元電位は600mV程度ありますが、通気が悪くなるにしたがって低下していき、強還元になるとマイナスに傾きます。
150mV以下になると根の活性が衰えるとされていますので、まだ田植え前であれば落水して酸素を水田に供給し、有機物分解を促進させるといいかもしれません。
また田植え後であれば、夏の暑い盛りに田んぼの水を抜いて土にヒビが入るまで乾かす「中干し」をすれば、メタンガスや硫化水素といった地中で発生するガスを抜くことができます。
ほかにも、コストは掛かりますが、鉄資材を入れると酸化還元電位を上げることができます。
いずれにせよ、適度な還元状態に保つことは良質なコメをつくることにつながりますので、この機会に酸化還元電位の測定を実行してみるのが得策でしょう。