兵庫県で野菜を生産している、農業法人です。
コロナ禍が終息した後に、観光需要が回復することを期待して、今から地元の農業法人と提携して、地場の特産品を使った農業レストランと直売所を開業したいと考えています。
最近、他の地域で同じような取り組みを行っている農業法人の間で、経営方針の違いなどをめぐってトラブルになり、事業不振に陥ったという噂を耳にして、二の足を踏んでいます。
私たちは農業生産のプロではありますが、経営管理のエキスパートではありません。
でもこれからは、経営や販売についても学んで、地元経済の活性化に結びつけていきたいと考えています。
組織の体制づくりや役割分担を決めるうえで、どのようなことに気をつけるべきでしょうか?
(兵庫県・山川さん/仮名・50代)
大場寿人
三宅坂法律事務所 パートナー
意思決定できるリーダーの役割が重要。借入れの連帯保証にも気をつけて
自分の会社だけで直売所やレストランなどを始めることは難しくても、いくつかの同業者と共同することで、設備投資資金、運営資金の調達や食材などの原料調達、事業の運営などがやりやすくなることもあります。
その一方で、直売所や農家レストランの経営は、それぞれの農家さんが、自身が作った生産物の販路を拡大したくて行われることが多いでしょうから、共同事業者それぞれの思惑がぶつかり合うことも少なくありません。
例えば、直売所の陳列場所や棚の大きさ、レストランのメニュー作りなどで、トマト農家であればトマトを、ブロッコリー農家であればブロッコリーをメインにしたいと思うのは当然のことです。
ですから、新しく事業を始めるに際しては、事前に共同事業者それぞれの利害を調整して、みんなが納得できる内容(誰がどのような利益を得ることができるか)を合意しておく必要があります。
また、合意できたとしても、実際に運営を始めるとさまざまなことが起こりますので、そのときどきの状況に応じた適切な経営判断が求められます。このような場面では、誰かがリーダーとなって経営判断していかなければ事業はうまく回りません。共同事業者全員が「社長」状態では、臨機応変な経営は難しいでしょう。
さらに、新しい事業を始めるには設備投資資金や運営資金の調達が必要です。銀行などの金融機関から借入れをするのが一般的ですが、ここで気を付けなければならないのは、「連帯保証」です。
万一、事業がうまく回らない場合、連帯保証人が多額の借入れの返済を求められます。共同事業者全員が連帯保証をしている場合、それぞれの利害が激しく対立し、進むことも引くこともできない「手詰まり状態」に陥ります。
このように、もし共同事業を始める場合には、利益(誰がどのような利益を得られるか)、権利(経営方針を決める人)及び、責任(借入金などの連帯保証責任)を、誰がどのように担うのかを事前に決めておくことが何よりも大事だと思います。
高田裕司
日本プロ農業総合支援機構(J -PAO)上席コンサルタント
業務の負担が一部の人だけに偏らないように
グループで事業に取り組む場合は、「地域ブランド」や「生産者のストーリー」を地域あげてPRしやすくなることがメリットになります。
一方で、ご質問のとおり、揉め事がおこるデメリットも考えておく必要があります。
特に問題になりやすいのは、「負担が一部の方に偏ってしまう」可能性です。最初は熱意があるので、参加者全員でいろいろな問題を乗り切ることができても、情熱が冷めてくると「私だけが苦労している気がする」などと不満が噴出するケースがみられます。
では新規事業を長く続けるために、何に注意すればいいでしょうか?重要なことは、事業計画を立てる際に「各メンバーの役割、権限と責任」を「見える化」しておき、事業を始めてからも、その都度、見直していくことです。
この場合の権限と責任とは、具体的に「意思決定は誰がどのように行うのか?」「設備投資やランニングコストの負担割合」「収益の分配方法」のほか、赤字を出した場合、「メンバーがどのような割合で補填するのか?」などがあげられます。このほかにも、営業時間や休日について検討する必要があります。
また、食品衛生法の改正によって、2021年6月からは食品の製造、加工や調理、販売などに携わるすべての業者にはHACCP(ハサップ)が義務化されますから、衛生管理面を検討しなければなりません。
さらに、グループで事業を進めるにあたっては、どういう目的や運営方法を目指すのかによって、株式会社、農事組合法人、一般社団法人、任意組織など組織の形態が変わってきますから、各都道府県にある6次産業化サポートセンターや農業経営相談所などの無料相談窓口を上手に利用して、積極的に相談されるとよいのではないでしょうか?