鹿児島県で、馬鈴薯を生産している50代です。作付面積は0.5ヘクタールほどで、さほど規模は大きくありません。
農地は海が近いおかげで、潮風によってミネラルが運ばれてきます。自慢の豊かな土壌が生産物に旨みを加えてくれているせいか、味にも高い評価をいただき、お客さまに喜んでいただいております。
特に、新じゃがは注文が多く嬉しい悲鳴をあげています。さらに安全で安心な馬鈴薯を生産していくため、新しい情報を常に取り入れるのがモットーです。
最近、知り合いから「ニームオイルがいいらしい」と聞き、とても気になっています。
ニームといえばバラの栽培で使われるイメージしかありません。実際に馬鈴薯に対する効果を知りたいです。
馬鈴薯以外での農作物によって効果が変わるのかどうかも非常に気になっています。ニームオイルを散布するタイミングや、季節による頻度などといった基本的なことも含め、専門家のご意見を伺いたいです。
また、現時点ではミネラル豊富な土壌に満足していますが、もしニームケーキを取り入れた場合、カルシウムとの相性はどうでしょうか?どのように土壌が改良されるのかも詳しく知りたいです。
(鹿児島県・松元さん/仮名・50代)
豊田剛己
東京農工大学 農学研究院 生物システム科学部門 教授
ニームオイルとニームケーキの特性を知って使い分けよう
まず、基本的なことから確認しておきましょう。ニームはインド原産の樹木で、正式名称は「メリア・アザディラクタ」といいます。「 健康を与えるもの」という意味があるそうで、薬用ハーブとして位置付けられています。ニームの種子からニームオイルを搾り取ったあとの絞りかす(ニームケーキと呼ばれます)は、植物寄生性線虫の抑制効果が世界中で注目されています。
ニームケーキを10aあたりに100㎏混和すると、ネコブセンチュウ(根に無数のコブが現れ、土壌病害の発生を助長するセンチュウの一種)に対する抑制効果があると報告されています。
これは、殺線虫剤と同等に近い効果とされています。また、ニームオイルにはさまざまな殺虫成分(リモノイドと呼ばれる成分)が含まれているため、地上部の害虫防除にも有効で、世界的に使われているようです。
一方、理由は不明なのですが、日本ではニームオイルもニームケーキもそれほど使われていないのが現状です。おそらく日本では製造されていないので、輸入コストが大きく費用対効果の点で劣るのだと想像します。
じゃがいもでどういった病害が実際に発生しているのかわかりませんが、ジャガイモシストセンチュウが猛威を振るっている北海道の馬鈴薯(ばれいしょ)栽培では、ニームケーキはセンチュウ対策として有効だと考えられています。
しかし、相談者さんが住んでいる鹿児島の馬鈴薯栽培ではジャガイモシストセンチュウはほとんど問題になっておらず、そうか病菌(バクテリア)による「そうか病」がメインだと思います。だとすると、土壌中の病原菌に対しては、センチュウ以外にはあまり効果がないので、ニームケーキの効果は期待できないと考えられます。
ジャガイモの地上部の生育でどういった害虫が発生しているのかはわかりませんが、害虫発生に苦慮されているのであれば、ニームオイルの利用は有効です。
カルシウムとの相性とのことですが、ニームケーキ自体にはカルシウムが0.8%ほど含まれています。10アールに100㎏使用すると0.8㎏のカルシウムを使うことになるため、カルシウム肥料としての効果が若干期待できます。ニームケーキを施用することで、カルシウム吸収を阻害するようなことは考えにくいです。