桃とぶどうを栽培しています。摘果や袋がけ、収穫作業などに人手が欲しいのですが、最近は継続的に働いてくれるアルバイトを探すのが難しくなっています。
そこで、自治体が障がい者雇用に熱心に取り組んでいるので、知的障がい者の福祉施設に相談して、作業委託してみようと考えています。
作業委託すると福祉施設の職員が障がい者の方々に同行してくれるということなので、作業を指示するという、素人では難しいところを専門家に任せられてありがたいです。
しかし、福祉施設の職員の方は農業に関しては素人なので、障がい者の方々に農作業の内容の説明を行う必要はあります。
その際にわかりやすく伝える工夫や気をつけるべきことを教えてください。
(山梨県・雨宮重隆さん/仮名・50代)
伊藤文弥
NPO法人つくばアグリチャレンジ代表理事
障がい者に作業内容を伝えるのは福祉施設側。職員にわかりやすく説明を!
私たちは茨城県つくば市で障がい者を対象に、雇用契約を結ばない形で就労訓練を行っているNPO法人です。
ご指摘のように福祉施設側の職員は農業の素人ですので、僕たちも農家さんから作業を教わってから、その仕事を障がいのある人たちと一緒に行います。
実際に作業の内容を障がい者に伝えるのは福祉施設の職員になります。
その際に作業手順を記載した図やマニュアルなどがあるとベストですが、現実的にそこまでしてくれる農家さんはほとんどいません。
そのため、現実的にはメモや記録する必要がある場合、福祉施設側が残していく形になると思います。もちろん、農家サイドで準備してくださる場合は、作業内容についてわかりやすい説明資料があるに越したことはありません。
以下、福祉施設とやり取りされる際に気をつけた方がよい点についてご説明いたします。
1つ目として、まず福祉施設側に障がい者との間をつなぐキーパーソン(固定した職員)を設定していただくことです。
福祉施設が農家さんのお手伝いに行く場合によくあることですが、農家さんから最初に丁寧に教えていただいても、福祉施設側の同行職員がコロコロ変わることがよくあります。
農家さんは職員が新しく変わるたびに、イチから教え直さなければならなくなるので、毎回余計な時間が掛かります。
作業委託する側の農家さんにとっては、固定化した職員に指導するほうが時間の無駄を防げるため、最初のうちに担当するキーパーソンをしっかり決めていただくこと、可能ならばできる限り優秀な人を回してもらうよう福祉施設側に伝えてください。そのほうが福祉施設側にとってもメリットがあります。
2つ目として注意したいのは、作業の支払い金額をどう決めるかという点です。
金額は、「作業時間」で決めるケースと、「作業量」で決めるケースがあります。僕らの場合には前者のやり方でやっており、時給を一律いくらと設定する場合と、人によって作業スピードが異なるので、時給を細かく分ける場合があります。
金額としては、僕らの場合を例に挙げると、時給400円が基本で、ケースによって200円〜500円と幅があります。
一方、作業量で金額換算するのは、厳密には設定が難しいといえます。たとえばブルーベリーを収穫する場合、比較的数量に換算しやすい作物なので、「何kgいくら」というように料金を設定できますが、実がたくさんなっている状態なのか、少ない状態なのかによって作業スピードが変わってきます。
同じように1反のネギ畑の雑草を抜く作業の場合でも、草の生え方によって作業の大変さが大きく異なります。
支払い金額については、私たちの例や上記のことも参考にして、福祉施設側とよく話し合って決定してください。
3つ目として重要なのは、どんな作業を障がい者にお願いするのかを最初に決めておくことです。
たとえばこの先、長期にわたって委託する予定がある場合には、年間を通じて仕事量を確保できる作業がおすすめです。その一方で、収穫期など一時的に人手が必要な仕事もあります。
作業を委託する際には、知的障がい者にとってやりやすいかどうかも重要なポイントになります。ひとつ覚えておいていただきたいのは、知的障がいのある人たちにとってやりやすい仕事というのは、「迷うところが少ない作業」です。
もちろん、手先の器用さやスキルが要らないという点も考慮する必要がありますが、とくに大事なのは障がい者が判断する工程が少ないということです。
たとえば、じゃがいもを4等分に切ることは誰でもできますが、芽の数が均等になるように切るとなると、どこに包丁を入れたらいいか迷ってしまいますよね。
したがって、知的障がいのある人たちに頼む場合には、次に何をすべきか自ら判断しなくてもいい作業を用意しましょう。
4つ目は事前準備や注意点ではなく、心構えについてですが、うまくいかない場合があることを前提にして臨むことです。
障がいのある人と一緒に農業を行う場合、利便性を追求するとか、楽できるとか、効率的だという点に重きを置くことはできません。僕ら社会福祉側の人間にとっては、福祉的な考え方が優先されます。
もちろん、やり方によっては効率性や品質の向上を追求することも不可能ではないのですが、障がい者と働くことで楽できるというようなメリットはあまりなく、むしろトラブルが発生することは避けられないでしょう。
このようにトラブルが生じることを前提に準備を進め、問題にぶち当たったら現状を少しずつ改善し、それぞれの農家ごとに農福連携のよい形を作っていく。そうした心構えで臨むことが大切です。