家族で循環型農業を目指し、田んぼと畑を行ったり来たりする毎日。
伝統の田園風景を守るために、環境に負荷をかけない農業を目指しています。
うちの田んぼには、水を張るとメダカや昆虫がやってきます。
圃場に入れた水は落水させず、刈り取り間際まで使用しています。
稲刈り後は乾燥させるのですが、毎度複雑な心境になります。
よその地域では、稲刈り後も水を溜めておく「ふゆみずたんぼ」という取り組みをしているところがあるようです。
メダカなどの住み家になりながら、冬には渡り鳥の憩いの場となり、その糞も肥料になる。
また菌類やイトミミズなどが、土に良い影響を与えるのだそうです。
これはまさしく私の目指すべき農業だと感心し、挑戦してみようと思います。
しかしながら、インターネットで調べてみると「ひとりで取り組んでも意味はない」とか「収量が減る」といった噂を目にします。
「ふゆみずたんぼ」の効果について詳しく教えてください。
(宮城県・田丸さん/仮名・60代)
齋藤真一郎
佐渡トキの田んぼを守る会会長、有限会社齋藤農園Fruits&cafe Saito
ふゆみずたんぼのデメリットはありますが、田んぼは生物多様性の宝庫。地域として必要なことです
「ふゆみずたんぼ」のメリットは、さまざまな生物の生息場所になることです。また、有機栽培や無農薬栽培における抑草技術として実践されています。
イトミミズやユスリカが増えトロトロ層が形成され、雑草の発芽が抑制されます。なんといっても、ふゆみずたんぼを行うことで水鏡現象や、鳥類の賑わいなど田んぼ周辺の風景がよくなります。
デメリットもあります。まず、太平洋側では乾燥が続くためポンプを使い強制入水する必要があり、コスト高になることです。
一番の難点は、田んぼが柔らかくかつ深くなり、農業機械の走行に支障が出ることです。
私が住んでいる佐渡でも、環境直接支払い制度を利用した全面湛水する田圃が残っています。しかし本来、ふゆみずたんぼは、現在の乾田化を基礎とする稲作技術とは、ある意味で反する技術なのです。
実施田からの漏水が苦情となることが多いので、近隣農家との合意形成が必要です。抑草効果はあるのですが、水を溜める期間が長いと今度は水に強い草が繁茂して除草が大変になる場合もあります。
米作りは多様性の世界です。全期間湛水すると弊害も大きく、湛水と乾かす場面を状況に合わせて行うことが大事です。
期間が長いと生育不良となり収量減につながるので、春先や中干しの時期は、水を切り乾燥させて根に酸素を与える方が生育や食味はよくなります。
水の駆け引きは重要で、その際生き物への配慮は不可欠です。生物の羽化や変態を確認してから中干しに入る(中干延期技術)ことや、田んぼの一角に水溜まりができる部分を作るなどして生きものたちへのダメージを最小限にする技術も必要です。
ひとりで始めることは勇気がいりますが、メリット・デメリットを理解し、改善と啓蒙を続けてください。
世界的に生物多様性の危機が叫ばれるなか、田んぼは身近な生物多様性の宝庫です。田んぼから環境問題を考えることは、地域として必要なことだと思います。