最近、三浦市の三崎市場が改修されて、窒素氷の製氷設備が入ったと地元新聞で見ました。
窒素氷というと10年ほど前に北海道の方で開発され、鮮度保持にとてもよいということを以前聞いたことはありましたが、設置にはかなりお金がかかるようです。
三崎市では冷凍マグロの基地でもあることから、導入には国から補助が受けられたそうですが、今後鮮魚の販路拡大を考えたときに、地元漁協でもこのような鮮度保持に優れた最新の製氷設備を導入してほしいと思っています。
そこで伺いたいのですが、窒素氷のように鮮度保持効果がアップする優れた製氷設備があれば教えてください。
また、そうした製氷設備を導入する際に活用できる補助金などがありますか。
漁協にも提案したいので教えていただきたいです。
(神奈川県・橋本さん/仮名・50代)
麓 貴光
株式会社水土舎 代表取締役
鮮度保持効果が期待できる氷の性状や使い方は魚種や漁の仕方で異なります
漁獲物の鮮度保持には氷が不可欠です。通常、漁業者の方々が使用する氷は上水を凍結したもので、使い方としてはおおむね次に挙げるように3通りに分けられるかと思います。
ひとつめとして、魚槽に氷を積載して海水を注入し、海水氷として使用する方法で、定置網やまき網、サンマ棒受網などの漁はこの方法です。
2つめは、発泡スチロール箱に氷を敷き(下氷)、その上に漁獲物を並べて蓋する方法で、イカ釣や一本釣・刺網などの沿岸漁業ではこの方法をとります。
3つめは、魚槽や容器に収納した漁獲物を氷詰め、または上に氷を敷く(上氷にする)方法で、マグロなどの大型の魚がこの方法です。
以上のように、対象となる魚種や漁業の種類によって、鮮度保持効果を期待できる使い方が異なるのです。つまり、氷については性状もさることながら、その使い方も重要であることがわかっていただけると思います。
したがって、魚の鮮度保持を考える場合には、まずは氷をどのように使うのが対象魚や漁法にとって最も効果的なのかを考えてみましょう。
その上で、鮮度保持にとって効果的な氷にはどのようなものがあるかですが、「窒素氷」は基本的な製法として水に圧力をかけて窒素ガスを封入し、酸素を含まない水をつくって凍結するものです。
使用方法としては通常の氷と変わりませんが、氷が溶けた際に酸素が発生しないので、酸化による劣化がないことが鮮度を保持する上で大きな強みとなります。
つまり、冷却効果としては通常の氷と変わりませんが、酸化防止が重要視される場面で使用すると、その効果がより高くなるということです。
たとえば、発泡スチロール箱に詰めたりする場合、なかでも下氷や氷詰にするような魚種や漁法の場合には大きな効果が期待できるでしょう。
このほか、氷の性状としては、フローアイスやスラリーアイスなどと呼ばれる、流動性の高い「海水氷」や、通常より細かく破砕した氷などがあります。
前者の海水氷は、サンマ棒受網漁船に積み込まれ、船上で使用されることもあります。急速に冷却できて鮮度保持につながるほか、魚体の色ツヤもよくなるなど、大きな効果が得られるようです。
一方で、海水氷をアジやブリ、とくに幼魚のイナダなどに使用すると、冷却しすぎてしまい、魚体の色があせてしまうなど、使い方によっては弊害もみられるため、注意が必要とのことです。
以上のように、氷の性状によってそれぞれ用途に応じた使い方があります。ご自身の漁法や対象となる魚種などにしたがって慎重に検討されることが必要です。
なお、補助制度に関してですが、こうした施設を整備する際に現状で最も活用されているのは、「浜の活力再生・成長促進交付金」(水産庁・水産業強化支援事業)だと思います。
この交付金は、地域の漁業関係者が漁業所得の向上に向けて策定した「浜の活力再生プラン(浜プラン)」の着実な推進を支援するために、浜プランに位置づけられた共同利用施設の整備や密漁防止対策、浜と企業の連携推進、水産業のスマート化の推進などの取組を支援するものです。
漁協が事業主体になるとすると、製氷施設は組合員の皆さんが利用する共同利用施設という位置づけになりますので、この共同利用施設の整備を浜プランの中に取組方策のひとつとして位置づけることで、この交付金を活用することができます。ぜひこうした交付金に申請してみてはいかがでしょうか。