長崎県で漁師をしている者です。長崎県には米海軍基地があり、その影響で漁場にもたびたび米軍の軍艦が通ります。
その際、漁網が軍艦のスクリュープロペラに巻かれて、破損することがあります。
こういった事故は漁船でも起こることがあるのですが、漁船の場合は保険で対応してもらえるので、被害はそれほど大きくありません。
しかし、アメリカ軍の軍艦による被害の場合、取り合ってくれず泣き寝入り状態です。
新しいものを買うとなると出費はかさみますし、何よりやり切れない気持ちになります。
同僚たちと話していても「相手は米軍やし、どうしようもなかろ」と、半ばあきらめています。
米海軍基地のある土地特有の悩みかもしれませんが、どのように対処したらいいかアドバイスをお願いします。
(長崎県・高木さん/仮名・40代)
馬場 治
東京海洋大学名誉教授
公的機関を通して米軍に漁具の敷設場所を告知してもらいましょう
具体的な状況が分かりませんので、まず概論的なことを説明します。
「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づき日本国にあるアメリカ合衆国の軍隊の水面の使用に伴う漁船の操業制限等に関する法律」では、「防衛大臣は、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づき日本国にあるアメリカ合衆国の陸軍、空軍又は海軍が水面を使用する場合において、必要があるときは、農林水産大臣の意見を聞き、一定の区域及び期間を定めて、漁船の操業を制限し、又は禁止することができる。」(第一条)と、安全保障上必要な場合、漁船の操業の制限や禁止ができることについて書かれてあります。
その上で、「国は、前条の規定による制限又は禁止により、当該区域において従来適法に漁業を営んでいた者が漁業経営上こうむった損失を補償する。」(第二条第一項)と、安全保障上の制限や禁止によってこうむった損失は、補償が明示されています。
そして、損失補償の手続きとして、「前条の規定による損失の補償を受けようとする者は、防衛省令の定めるところにより、その者の住所の所在地を管轄する都道府県知事を経由して、損失補償申請書を防衛大臣に提出しなければならない。」(第三条第一項)と定められています。
これに基づいて、漁船の操業を制限・禁止する区域と期間は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づき日本国にあるアメリカ合衆国の軍隊の水面の使用に伴う漁船の操業制限等に関する法律第一条の規定による漁船の操業を制限又は禁止する区域及び期間並びにその条件」という告示の中に別表として示されています。
今回はこれには該当しない例だと思いますので、仮に米軍艦船による被害であったとしても補償を求めることは容易ではないと思います。
具体的な状況が分かりませんが、もしそのような被害がたびたび起こるのであれば、都道府県にある海区漁業調整委員会に申し出て、そこから米軍に漁具の敷設海域を通知し、その海域を避けて航行するように申し出てもらうということを依頼してみてはいかがでしょうか。
もちろん、米軍の船であるという確たる証拠をつかんでおくことが前提です。ただ、このような事故ではそもそも船を特定することが難しい場合が多いです。