京都府で山を所有している者です。持っている山は、先日急死した父から相続したものになります。
これまで林業に関わる仕事をしていたので、今後は自分のところの山をしっかり管理していこうと考えています。
しかし、ただ管理するだけだとしんどいので、松茸を復活できないかと思いつきました。
現在山に生えている木はスギが50%、ヒノキが20%、あとはコナラなどの広葉樹です。
地表はほとんどツタ類やシダ類が生えていて、いまは豊かな山とは言えません。
豊かな山にして松茸が生息するようにするには、どうしたらいいのでしょうか?もちろん、数年がかりになることは理解していますが、方法を教えていただけると助かります。
(京都府・三宅さん/仮名・60代)
藤原儀兵衛
マツタケ博士
マツタケの生産には「痩せた山作り」と「人工的な根切り法でシロを作る」ことがポイントです
回答は、マツタケ作りのキモとなる「山の状態や発生環境」「発生までの時間と心構え」「発生のメカニズム」「人工的な根切り法によるマツタケ増産の山づくり」などに絞ったものです。
山の状態や発生環境について、まず確認したいのですが、お父さまから相続される山に、人の手は入っていますでしょうか?
すべてではないにしても、一部に手が入っていたり、これから手を入れる予定の場所もありますか?
マツタケができるかどうかは、山の状況によって全然異なります。山の状況というのは、過去も含めて人の手が入っているか否かということです。
じつは、人の手が入っていない山の方が、マツタケは発生しやすくなります。
しかし、人の手が入っていない理想的な山ですら、マツタケが発生するまでに、手を入れて胞子を撒いてから、最低でも10年はかかってしまうと覚えておいてください。
ありがちな話なのですが、国による間伐の推進によって、過去に補助金をもらって2〜3割程度の木を切ってしまったマツタケ山では、その後、25年程度は増産が難しくなります。
どんな方法で挑戦してもダメです。発生を早めることはできません。
そのうちにアカマツの木も老齢化するわけで、マツタケ生産の環境としては下り坂になっていくだけになってしまいます。
私はマツタケづくりに取り組んで65年ほどになります。
いろいろな方々から相談を受けて、北は岩手や青森、南は四国、広島、岡山など、本州を中心に全国各地の山をまわって見てきました。マツタケ発生までの年月は、その経験からの結論です。
それを踏まえたうえで、発生までの時間と心構えを紹介します。
人の手が入っていない理想的な山でも10年はかかりますが、そもそもマツタケの胞子がアカマツの根に付いて「シロ」と呼ばれるコロニーができ、シロができるまでには、5年もかかってしまいます。
さらに、シロができてからマツタケが出るまでは、環境や状況によって1年から数年かかるものですから、マツタケの生産は、非常に根気が必要なのです。
我慢強さ、マツタケに対する情熱、そして誠実に山やマツタケと向き合っていくことが必要となります。
2020年7月にスイスに本部があるIUCN(国際自然保護連合)が最新の「レッドリスト」を発表しました。
そこでマツタケが初めて絶滅危惧種に指定されました。日本の環境省はIUCNとは別に、準絶滅危惧種に指定しています。
マツタケというキノコは、普通のキノコのように簡単に発生するわけではないのですが、見つけた人はシロを破壊して、根こそぎマツタケを採ってしまうことで、発生に必要な胞子を飛ばすためのマツタケがなくなってしまうのが原因です。
さらに、日本の森林は、人の手がほとんど入らなくなってしまったため、腐葉土が増えて、マツタケが育ちにくい豊かな森林になってしまったことも大きな理由です。
なぜ豊かな森林でマツタケは育ちにくいのか? それは発生のメカニズムに原因があります。
繰り返しますが、マツタケはアカマツの根に菌糸を伸ばして「シロ」を作ります。
「シロ」と呼ばれるコロニーは、マツタケの菌糸とアカマツの根が一緒になった塊のことです。
「シロ」でマツタケ菌はアカマツと栄養分などを交換しながら共生し、成長します。じつはアカマツもマツタケも痩せて枯れてしまった土地を好みます。
とくに肥沃で栄養豊かな土地には多くの菌が繁殖し、繊細なマツタケ菌は育ちにくくなります。これが豊かな森林が適していない理由です。
私は2014年秋に「人工的な根切り法」でマツタケを増産する方法を公開しました。この方法をお伝えします。
まずはできるだけ理想的な山を見つけます。そしてマツタケが好むような痩せた土にするために「柴(しば)かき」を行います。
熊手などを使って松の落ち葉などを掻いていきます。これをせっせと繰り返すと、山はマツタケが好むような痩せた、しかも硬い土になっていきます。
さらにアカマツの枝打ちは「木漏れ日が入る程度」にとどめます。ツツジの花は光がないと咲きませんが、ツツジの花があまり咲かない程度の明るさにします。山をこの状態のまま維持することが基本です。
そして「人工的な根切り法」です。
春先、まだ桜の花が咲く前のタイミングにアカマツの若い根を切ります。カットする根の太さの目安は、割り箸の先ぐらいのイメージです。太くてもエンピツ程度の根を切ります。
つまり人工的に新しい根が出る状態にするわけです。
そして本番は秋。
マツタケの胞子がアカマツの新しい根に付きやすい時期が秋なので、秋になったらカサの開いたマツタケを根のそばに植えます。
あとはアカマツの根にマツタケが菌糸を伸ばしてくれて、「シロ」を作れば成功となります。
この方法ですと、できるまで10年かかったマツタケが、5年ほどで収穫できるようになるわけです。
一度シロができると、マツタケを採り尽くさず、胞子を撒いていれば、毎年収穫が可能となります。ただし油断すると、「ケロウジ」というキノコや、多年草の「シャクジョウソウ」という敵が増殖してマツタケを駆逐してしまうので要注意です。
逆に言えば、ケロウジとシャクジョウソウができている場所は、手入れすれば、マツタケができる場所(環境)と言えます。
簡単に言ってしまえば、「痩せた山作り」と「人工的な根切り法でシロを作る」ことがポイントです。初めて挑戦する場合は、どんなに最短でも5〜10年の時間がかかるという覚悟が必要です。