全国的にイノシシ被害が増えていると聞きます。私も山間部で野菜を作っているのですが、電柵を設置しても突破されることが多くてうんざりしています。
近所の農家仲間はもちろん、農家以外の人にも被害が出ているため、自治会で定期的に有害鳥獣捕獲班の人(狩猟免許と捕獲許可を持っている)にお願いして駆除を行っているのですが、まったく被害は減りません。
そこで「里に出てくる前に駆除しよう」と、自治会で「箱罠」を仕掛けて捕獲を始めたのですが、先日、仕掛けに行った人がイノシシと鉢合わせてケガをしてしまい、箱罠は中止することに……。
どうにか、安全にイノシシを駆除する方法はないでしょうか。よい知恵をお貸しください。
(長野県・鈴木さん/仮名・50代)
山本麻希
株式会社うぃるこ/長岡技術科学大学准教授
イノシシは里の近くにいるので、山中に罠を仕掛けるより電気柵で畑を囲って守りましょう
まず、イノシシの行動範囲はそれほど広くなく、農地から1キロ程度の範囲で生息していると考えられます。
ですから、「里に近づかせたくない」との考えがあるのはわかりますが、山の中に箱罠を設置しても意味がありません。
となると最初に優先して実施するべき対策は、電気柵で農地を囲んで、イノシシが近寄らないように適切に維持・管理することです。
電気柵の適切な設置管理とは、大前提として「電気柵を正しく張っていること」と、「常に4000ボルト以上、できれば5000〜6000ボルトの電気を流していること」の2点です。
このうち電気に関しては、周辺の雑草が生い茂って電線に触れると漏電して電圧が下がってしまいます。
電圧が低くなるとイノシシが柵本体を壊して突破してしまうことにつながるので、そうならないよう、日頃から電圧をこまめにチェックして、電圧が4000V以下に下がる前に草刈りを徹底してください。
また相談者の集落では、箱罠を仕掛けて捕獲しようとした人がイノシシと鉢合わせしてケガを負わされたとのこと。
イノシシの捕獲では、罠の見回りや、捕獲した個体を「止め刺し」(とどめを刺すこと)するときに、最も事故が発生する確率が高くなります。
仮に相談者さんが捕獲許可を持っていても、「止め刺し」の経験がない場合は大変危険ですのでやめてください。
イノシシが箱罠に入った場合は、猟友会の人に頼んで、罠の外側から銃で殺してもらう方が安全です。私たちの場合には、イノシシの体の3点をワイヤーで保定したうえでナイフで殺しています。
農家さんがどうしても自分で「止め刺し」したい場合には、まず捕獲技術を学んでからにしてください。
技術のある捕獲者であれば、掘った穴がわからないようにカモフラージュする方法などを熟知していますので、行政を通じて講習会を開いてもらって研修を受けると良いでしょう。
ここからは、イノシシと対峙した際にどうやって身を守るかをお話しします。
イノシシによるケガは体当たりされて打撲するケースが最も多いので、見かけたらすぐ物陰に隠れるか、近くに車や木などがあって登れる場合には1メートル以上の高さまで登ってください。
もしも木の枝などで追い払おうとしてしまうと、イノシシが興奮して非常に危険ですので、絶対にやめましょう。
どうしても身を隠したり登ったりすることができない場合、イノシシは出っ張った部分を狙って噛み付きますので、後頭部を手で隠しながら膝を抱えてしゃがみこむことで被害を最小限に抑えることができます。