現在山口県で酪農を営んでいます。現在、120頭ほどの牛がおり、80頭ほどの牛から搾乳を行っています。
搾乳は朝と夕方2回を4人程度で行っており、1頭あたり作業に5分ほどかかるため、負荷が大きい状況です。
そのため、搾乳を効率化するために搾乳ロボットを導入してもいいかなと思うのですが、大きな利益が出ているわけでもないので、購入するには多額の資金が必要になります。
また、金融機関からお金を借りたとしても、ちゃんと返済できるのか不安です。
搾乳ロボットを導入する場合、銀行やJAから借りるしか方法はないのでしょうか。もし別の資金調達方法があれば教えていただきたいです。
(山口県・佐竹さん/仮名・50代)
土屋仁志
FOODBOX(あぐり・ばんく/株式会社加須畜産)
据置期間のついた借入れを検討してみましょう
金融機関からの融資は不安とのことですが、据え置き期間のついた農業者向け制度資金である「農業近代化資金」、または「スーパーL資金」を検討してみてはいかがでしょうか。
搾乳ロボットなどを導入してもすぐに搾乳量増加やコスト削減といった効果がでるわけではないため、返済がすぐに始まってしまうと負担が大きいかと思います。
しかし、据え置き期間を設ければ設備導入効果が現れたころに返済が始まり、削減分をそのまま返済に充当できるでしょう。
ただし、据え置き期間をもうけると、返済回数が少なくなることから、月額返済額に関しては大きくなりやすい点に注意して計画を立ててください。
以下は1000万円を借り入れ、返済期間を7年に設定した場合の例です。
据え置き期間なし 月額返済額 約12万円+利息
据え置き期間1年 月額返済額 約14万円+利息(据え置き期間は利息のみ)
具体的な判断基準として、収入の増加とコストの削減額が月々の返済額を上回れば検討をおすすめしますが、下回るようなら別の方法を見つけた方が良いでしょう。
参考までに、その他の選択肢にリースを採用する方も多く、固定資産税や保険、利息などのランニングコスト月々の料金にすべて含まれているので、事務手続きが合理化されるメリットがあります。
しかしながら、こちらは据え置き期間が設けられないため、それぞれの特徴を考慮しながら決めてみてください。
加藤武市
加藤技術士事務所
搾乳ロボットの導入には莫大なコストがかかりますが、支援制度もあります
一般的に搾乳ロボット(自動搾乳機)は、1台が数千万円する高額な機器です。同時に自動搾乳に対応した牛舎のレイアウトが必要であり、牛舎の建て直しが必要な場合が多くなります。
併せて給餌などの自動化のための設備投資も必要です。そのため、減価償却費が増加します。一度に1頭しか搾乳できないため、1日の搾乳回数にも上限があります。
費用で考えるよりも、労働力を削減するために導入する酪農家が多いのですが、搾乳作業がほぼなくなるので、大幅に軽減された労働時間を、他の作業に割り振ることで費用、所得が変化する可能性はあります。
労働時間の削減に関しては、搾乳ロボットシステムのメリットを引き出すために、搾乳ロボットだけの搾乳システムへ移行するのが望ましいですが、その場合、不適合牛への対応が課題です。
しかしセンサー技術の向上によって、搾乳機を乳頭に装着する際の成功率は改善しており、実際、搾乳ロボットだけの酪農家が増加しています。
乳牛を搾乳ロボットシステムに慣れさせることも含めて、泌乳速度やリフューズなど、搾乳ロボットシステムに適合的な素質を持った乳牛で牛群を構成することが望ましいです。
岡山農総セ畜研の報告によると、県内に導入してから5年が経過した搾乳ロボットの稼働状況を調査し、普及に向けた課題を検討しました。
平成 25 年度の稼働状況は、1 日1 頭当たりの平均搾乳回数は 2.4 ~2.9 回、平均乳量 は 28.6~31.2キログラムで、導入前に比べて1割程度増加する傾向が見られました。
また、搾乳頭数が60 頭を超えた場合には搾乳回数が目標値を確保しにくくなっていました。
搾乳ロボット導入のメリットとなる労働負担の軽減は各農場で見られましたが、動作異常の発生が頻発することや特定の作業者に負担が集中する農場が一部に見られたことが課題として見つかりました。
搾乳ロボットの円滑な運用に向けては、導入前に作業内容及び役割分担を確認するとともに、導入後はメンテナンス業者などとの意見交換が行える体制作りを進めることが重要です。
搾乳ロボットは、日本において1997年に初めて導入され、現在、国内導入農家数350 戸、560台程度が稼働しています。
ロボット1台当たりの搾乳量は 2,00キログラム/日以上 、搾乳回数 150~160回/日程度、稼働時間 20時間/日以上です。
経営規模別にみると、大規模経営体だけではなく、北海道の1経営体当たり平均飼養頭数(119頭)と同程度の、家族労働力を中心とした規模層で導入経営体数が多くなっています。
基本的な搾乳ロボットの仕組みは、フリーストール牛舎(舎内で牛を放牧する構造の牛舎)内に設置された、1頭分の搾乳用ボックスに、全自動での搾乳を可能とするロボットアームなどが付属したものです。
レーザーで乳頭位置を検知して、乳頭に1本ずつミルカーを装着して搾乳を行います。無人での24時間稼働が可能です。
また、ロボット内で給与される濃厚飼料を呼び餌とし、牛が自発的に進入するため、人手による搾乳にかかる誘導の手間が軽減されます。飼養頭数が大きく増加する一方、1人当たり頭数は増えています。
その結果、1日1人当たり労働時間は2時間ほど削減され、時間にゆとりを持てるようになったり、家族全員がローテーションで週1回の休暇取得を目指せるようになったりしたそうです。
家族の生活面へのゆとり確保。家族全員が時間的なゆとりを得て、体にも心にも安らぎ、生き甲斐や家族の絆を実感し、さらに明日への意欲と活力を再生してゆく手立てとなっていくと考えています。
一方で搾乳ロボットの課題としては、気質が極端に神経質な牛や行動が特に鈍い牛が問題になることです。
また、乳房や乳頭の位置、形状が不適な場合、とくに乳頭配列の不適な牛は物理的に自動装着が不可能です。これらに該当する牛は、酪農家により異なりますが、16%が不適合牛であるとしています。
さらに、搾乳ロボットは24時間作動しているので、搾乳ロボットを導入する場合の販売店側のサ-ビス体制が重要な条件にもなります。
少なくとも、数時間以内で復旧してもらえるサービス体制の整った販売店から購入しましょう。
メンテナンス契約も行なう必要があり、その経費も考慮する必要があります。搾乳ロボットの導入は莫大な投資になります。
搾乳ロボットはスマート酪農ですが、ロボットが収集する泌乳、疾病、繁殖などの生体情報に基づいて、乳牛のストレスを抑制し、家畜福祉を高める発想で個体管理し、飼料給与し、防疫・換気などの畜舎環境を整えて生産性を上げ、経済効果を引き出しています。
搾乳ロボットなどの購入またはリースによる導入には、必要な経費の1/2以内を支援する制度もあります。導入するには、近くの農業改良普及員に相談してみてください。