畜産経営の事業承継に伴う贈与税などの税負担を減らす方法は？

YUIME Japan編集部 / 2023.05.16

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現在肉用牛（肥育牛のみ）を約120頭飼育しています。脱サラして10年間一緒に経営を担ってきた息子に、そろそろ事業承継しようかと考えているところです。

経営はまだ法人化しておらず、個人事業主として青色申告でやっています。承継に伴って贈与税などがかかるようですが、それをできる限り抑えたいと思います。

畜舎や牧草地などの不動産は、無償貸与する形にすれば贈与税がかからないそうですが、牛の方は動産として貸与しても贈与と見なされるようで、贈与税がかかってくると聞いています。

法人化した方が事業承継する場合でもいろいろとメリットがあるという話も聞きますが、法人化する場合でも資産の贈与や貸与などに伴って贈与税が同じようにかかると思います。

息子としては、あとを引き継いでもらった後に肥育頭数を増やして規模を拡大したいようです。その意向も踏まえた場合、どのようにして事業承継に伴う税負担を減らしたらよいでしょうか。
（北海道・佐藤忠美さん/仮名・60代）

相続税と贈与税の関係を理解したうえで、信頼できる税理士などに相談しましょう

最初にご承知いただきたいのですが、事業承継は、オーダーメイドです。それぞれの事例に応じた方法を当てはめるべきであり、万人にふさわしい究極の策というものは無いと考えています。

まずは、相続税と贈与税の関係です。同じ財産額でも、相続で取得するより贈与で取得する方が高額な税金が発生いたします。

例えば、1億円の全資産を息子1人（法定相続人も1人）で相続した場合の相続税は約1,200万円ですが、贈与の場合は約4,800万円です。

したがいまして、贈与で承継するよりも相続で承継した方が、納税額は少なくなります。

他方、早期に事業承継を行うことは、今後の事業の成長にプラスになることも多いと確信しており、行動を取られることは良い事だと思っています。

事業承継をお考えなら、農林水産省がインターネットで公開している「農業の経営承継に関する手引き」をお読みください。
とてもよくまとまっていますので、ぜひ入手されることをお勧めします。

さて、仮に私が自身の顧問先から「節税」のための承継方法を相談されたとしたら、次のような優先順位を念頭に答えるでしょう。

第1位　法人を設立してタイミングよく株式を少しずつ贈与する。
（注）法人成り（法人化）は、経営の拡大には有効ですが、個人事業に比べて、経営のための費用負担が多いことがあります。

第2位　親子間で肥育牛（棚卸資産）を売買し、農地等は無償貸与契約を結び相続で取得する。
（注）後継者には、金融機関からの資金調達など一定の資金が必要ですが、棚卸資産が減少した分、相続税対象資産は減ります。

第3位　相続時精算課税を活用し、相続が開始した際に相続税を支払う。
（注）相続時精算課税は、節税策ではなく、課税の繰り延べです。

第4位　事業承継税制を活用し、贈与税・相続税の免除を受ける。
（注）手続きには相応の手間がかかります。

それぞれの方法を詳しく書くには紙面がまったく足りませんので、どうかご容赦ください。
なお、どの方法を選ぶかを決める際には、次の2点にご留意ください。

①前述のとおり、「節税」を含めた事業承継にはさまざまな条件を考慮する必要があります。いくらかの費用がかかったとしても、信頼できる専門家（税理士など）に協力を依頼してお進めください。

②事業承継は、一般的にはどなたか1人に財産が譲られます。相談者と後継者以外に相続人がいらっしゃる場合は、その方々にも快く納得していただいてください（文書に残しておくことが有効）。

蛇足ですが、「農地等の相続税・贈与税の納税猶予及び免除の特例」は、例えば都市部など、地価が高い場合には有効な手段ですが、農村部では効果が低い割に手続きが面倒（原則として相続人が亡くなるまで続きます。）ですから、私を含め、知り合いの税理士も使っておりません。