20年余りにわたって黒毛和牛の畜産農家をしていた叔父が引退すると決めたので、急なことではありますが、私が経営を引き継ぐことになりました(叔父には実子がいません)。
しかし、私はもともと東京で会社員をしていたので、畜産の経験は帰郷したときに牧場を手伝ったくらいのド素人です。
もちろん、畜産農家の経営はゼロから学ばなければなりませんし、事業を継承するためにはまず資産を整理しなければならないようのですが、それについてもまったくやり方がわかりません。
農地は固定資産になると思うので税理士さんに相談し、農機はJAの農業機械担当さんに中古下取り価格を算出してもらうことにして、叔父と貸借契約を結ぼうと考えています。
ただ、肝心の和牛の資産評価はどこにお願いすれば良いでしょうか?全国和牛登録協会などに聞くべきでしょうか?
(群馬県・増田さん/仮名・30代)
加藤武市
加藤技術士事務所
肉牛の評価は、仔牛の「導入価格×肥育経費」などで算出しますが血統など複雑な要素も!親族間の継承は課税にも注意して!
まず仔牛の導入価格を調べます。叔父さんが仔牛を買ったときの市場の購入伝票などで確認するのが一番いいのですが、それがわからない場合や、自分の農場で産まれた仔牛の場合は、「全国の和仔牛平均取引価格」を参考にして、品種や飼養日数(月齢)、1日あたりの生産費などをかけて概算すると良いでしょう。
また、1日当たりの生産費は、全算入生産費(地代全額算入生産費)から、素畜費(家畜の値段)を除いた額を平均肥育期間で割り算し、飼養日数は仔牛を導入した日から評価するまでの日数を累積します。
質問文からは、当該牛の導入価格やオスなのかメスなのかといった詳しい状況はわからないため、仮に「去勢した若い月齢の黒毛和牛」と仮定して、「1日当たり生産費」の全国平均820円を掛けていきます。ここでいう生産費は、例えば同じオスでも、和牛なのか交雑種(F1)なのか、ホルスタインなのかによって、数百円単位で異なります。
例えば、黒毛和牛の去勢オスを30カ月齢で出荷する場合、
「仔牛の導入平均価格75万4665円(2019(令和元)年度の「全国和仔牛平均取引価格」)+1日あたりの生産費820円×飼養日数(約20カ月×30.4日)」=合計124万2,281円となります。
必要な場合、この価格にさらに親牛の血統などが加味されます。親牛から仔牛に引き継がれる遺伝的な能力は、「育種価」と言って、母牛については登録団体が評価した登録点数、父牛については各都道府県が算定した育種価にもとづいて算定されますが、和牛の場合は父母のいずれの資質も加味されますが、交雑種(F1)は父牛のみ、ホルスタインなど乳牛には加味されません。
黒毛和牛の資産価額を算出するには、仔牛の値段や親牛の血統のほか、肥育農家さんの飼育技術や飼料の与え方(ビタミンA調整)、飼育環境など、すべての要素を加味して算出する必要があるため、飼育者による差が出やすく、数字化することが非常に難しいものですが、叔父さんと一緒に、その部分を押さえていれば、全国和牛登録協会に有償で評価してもらう必要はないと思います。
なお、ご相談者さんのように親族間で事業主を交代するときには、継承する資産への課税に注意が必要です。
不動産以外の農業用財産(動産)については、貸借しようとしても原則として「贈与があったものとして取り扱うこと」になりますので、専門家の意見が欠かせないでしょう。
相談者さんは税理士と相談されているようですが、最寄りの各振興局農務課および農業改良普及センターに相談すると助言してもらえますので、問い合わせてみてください。