西東京で父親と一緒に野菜を作っている農家です。
アスパラガスやのらぼう菜などを生産し、直売所に出荷しています。
新型コロナの影響もあり、直売所の売り上げがアップし、例年よりも忙しく過ごしています。
私の息子もいずれは継いでくれるようなので、今後もいまの規模で農業を継続していくつもりです。
近い将来、私も父親から農地を相続することになるのですが、今から相続税のことが心配です。
「相続税を払うのは大変だよ」と農業仲間からアドバイスされたことが何度かありました。
納税をするために農地を手放す人もいるらしく、そんなことになったら、納得がいきません。
しかし、この前ほかの同業者から「相続税には納税猶予という制度がある」と聞きました。
どんなときに、相続税の納税猶予が使えるのでしょうか?
(東京都・平井裕介さん/仮名・55歳)
高田裕司
日本プロ農業総合支援機構(J -PAO)上席コンサルタント
条件を満たせば納税猶予できる。農地を使わなくなったらダメ
事業を後継者に引き継ぐとき、事業用の資産などはそのときの価値をお金に換算し、その価格で売買するのが基本です。
一方、売買ではなく無償で渡す場合があります。親子間の相続の場合はこれに当たり、他人に無償か時価より安い価格で売買することもあり、これらの場合は、相続税や贈与税といった税金がかかります。
簡単に説明すると、相続税は亡くなった人から遺産を相続するときにかかる税で、贈与税とは生きている人から財産をもらうときにかかる税で、どちらも受け取る側が負担します。
税額の算出方法は、相続・贈与によりもらった財産の価額から基礎控除額を引いた金額に税率を掛けた金額となります。基礎控除額は贈与税が110万円、相続税が3,000万円+相続人の数×600万円です。税率は課税の対象となる額に応じて10%~55%と、対象額に比例して高くなります。
農地の場合、相続税・贈与税の納税猶予制度があります。農地が相続の対象になると、複数の相続人により分割され農地が細分化し、農業経営に支障をきたします。そのため、相続または贈与された農地で、引き続き農業を行う場合は、一定の要件を満たせば相続税の納税が猶予されます。
また、先代の経営者が生きている間に一括で農地を贈与した場合にも、贈与税が猶予される制度もあります。もちろん、いずれの場合も、その農地で農業をしなくなったら猶予が打ち切られ、利子税を乗せて納付することになります。
農地の納税猶予については農業委員会や都道府県農業会議におたずねください。そのほかの事業承継に伴う納税猶予や免除などの制度については、税理士や独立行政法人中小企業基盤整備機構、事業引継ぎ支援センター、都道府県の中小企業課などが相談に乗ってくれます。