私ども夫婦と息子の3人、家族で小規模に営んでいる野菜農家です。
農業を取り巻く厳しい状況を乗り越えるためなのでしょうか、市や組合から経営を見直すよう促されています。
今まで通りのことをやっていたのでは、この先もっと大変になることはよくわかっています。
先日、組合の担当者から「農業複式簿記」を取り入れてみませんか?とすすめられました。
聞くと、家計と農業経営を分けることで、経営状況を把握することや見直しに結びつくというメリットがあるそうです。
とはいえ、恥ずかしながら、長い間どんぶり勘定でやり繰りしてきたので、何から手に付けていいかわかりません。
ただ、経営に無駄があることには気づいています。
そうしたものが少しでも解消されるなら、農業複式簿記でもなんでも取り入れたいと思います。
高齢で、数字にも弱いのですが、取り組めるものなのでしょうか?
(茨城県・横倉さん/仮名・60代)
福島宏和
福島宏和税理士事務所所長/ふくオフィス合同会社社長
農業複式簿記より「簡易な帳簿」がおすすめです。 経営の実態を見る習慣をつけましょう
数字に弱い方、弱いと思っている方などにとって「複式簿記はハードルが高い」と考えるのは、無理のないことです。
世間には簿記に関する本や、簡単さを強調する会計ソフトもたくさん出回っていますが、基本がわかっていないと誤った決算書を作ってしまうリスクもあります。
レベルとしては、履歴書に書ける最低レベルとされる「簿記検定3級レベル」は必要です。
そこで私がおすすめしているのが「簡易な帳簿」です。すでに確定申告を経験している方なら、もうやっているかもしれません。
やり方はシンプルで、売上や各種経費を項目ごとに集計するだけです。項目は、仕入、旅費交通費、消耗品費などです。
具体的には、日付、購入先、金額、内容を、手書きのノートやエクセルなどに残すだけです。
もし、相談者さんが白色申告をしているなら、これだけで青色申告の要件を満たします。それにより、10万円の控除が受けられます。複式簿記の55万円控除よりは少ないですが、控除ゼロよりはお得です。
このお話を聞いてハードルが高いと感じるようであれば、経理や帳簿に関する部分は身近な人にお任せしたほうがいいでしょう。
簡易的なものでも帳簿ができると、農業経営に関する情報が集約され、家計と分離できます。
すると、売上や経費の傾向がわかり、必要な利益から逆算し見直しポイントを探す手がかりにもなります。
経営状態の把握のために複式簿記は必須ではありません。問題は、実態を見る時間が足りないことです。
複式簿記に向けて頑張るはずの時間を「経営実態を見る時間」に充てれば、経営の状態や問題点が見えてくるでしょう。