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10年契約で借りた土地を「他の人に高く貸すから5年で返せ」と言われました。泣き寝入りするしかないの?

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10年契約で借りた土地を「他の人に高く貸すから5年で返せ」と言われました。泣き寝入りするしかないの?

九州で和牛農家をやってますが、県名は出したくありません。地元の農業委員さんの仲介で農地中間管理機構から土地を借りて5年目になりました。

本来は10年契約だったはずなのですが、最近になっていきなり農業委員から「他の人に土地を貸したいから返して。その人より高く借りるというなら貸してもいいよ。明日までに返事して」との連絡を受けて、驚かされました。

実際には農地中間管理機構から土地の所有者からの転貸という形で借りております。

そんな馬鹿な、と青くなり、すぐに周りの畜産仲間に相談しました。

すると、この農業委員は仲間内でも問題がある人で、私が知らなかっただけで、これまでにもさんざん泣かされた人が何人もいることがわかりました。

その人たちは、揉め事を起こすと、今後長く仕事を続けられないかもしれないと、諦めて泣き寝入りしてきたと聞きました。

こんなことあり得ない話なので、腹が立って仕方ないし、役場に乗り込んで苦情を言いたいですが、家族や仲間からは穏便に済ますよう止められています。

もちろんトラブルは避けたいですが、今の場所で今後も仕事を続けていかなければなりません。泣き寝入りするしかないのでしょうか?トラブル解決策を教えてください!
(九州・山川さん/仮名・30代)

津田秀太郎

弁護士法人ほくと総合法律事務所札幌オフィス 農業事業者向け法律相談窓口Law&Farmメンバー

「契約条件」を確認し、状況を整理しましょう

10年借りる予定の農地を契約期間の半ばの5年目で突然「他に貸すから返せ」「高い賃料を払えるなら貸し続ける」などと言われたら、それは困惑しますよね。

ですが、ここはいったん落ち着いて状況を整理してみましょう。

1:土地賃貸借契約の確認

ご相談者さまが農地中間管理機構から土地を借りるにあたっては、土地賃貸借契約を締結なさっているのではありませんか?

そうであれば、その契約条件を確認できる資料(「農地利用集積計画書」というタイトルの資料ではないでしょうか)をお手元にご準備ください。

まずは『契約当事者』を確認してみてください。あくまでも貸し手(利用権設定者)は農地中間管理機構であり、借り手(利用権の設定を受ける者)はご相談者さまであって、仲介者である農業委員のAさんは契約当事者ではないのですよね?

次に『契約条件』を確認してみてください。以下の3つの定めがありませんか?

すなわち
(1) 「賃貸借期間(利用権の存続期間)の中途解約」に関する定め
(2) 「どういう場合に賃借権(土地利用権)が解除されることがあるのか」に関する定め
(3) 「借賃の改訂」に関する定め……の3点です。

このうち、(1)の定めについては、「賃貸借期間(利用権設定期間)の中途で解約しようとする場合には相手方の同意が必要となること」、つまり、「貸し手が中途解約しようとする場合は借り手の同意が必要となること」とされていませんか?

また、(2)については、解除事由は「農地を適正に利用していないこと」などに限定されているのではありませんか?

(3)については、「貸し手と借り手が協議して借賃を改訂すること」は予定されているかもしれませんが、「貸し手が一方的に借賃を増額すること」は予定されていないのではないでしょうか?

2:対処方法について

さて、この先は次の(ア)から(エ)までの事情を前提に、対処方法について検討を進めていきましょう。

すなわち、
(ア)農業委員Aさんは契約当事者ではないこと
(イ)契約の中途解約には相手方の同意が必要であること
(ウ)賃借権の解除は農地の不適正利用などに限定されていること
(エ)貸し手が借賃を一方的に増額することはできないこと…の4点を前提とします。

ここまでの事実確認ができれば、「Aさんはご相談者さまと農地中間管理機構との賃貸借契約に関与する契約上の地位にない」、「Aさんの言い分は契約上の根拠(つまり法的な根拠)がない」ということが見えてきているのではないでしょうか?

そして、このような整理ができるのであれば、「Aさんの"要求"」は法的に意味がない」すなわち、「ご相談者さまがAさんの"要求"に従う法的義務はない」という結論になります。

要するに、ご相談者さまがAさんの"要求"に応じて、土地の貸し手である「農地中間管理機構」に土地を返却する必要はありません。

さらに増額した借り賃を「農地中間管理機構」に支払う必要もなく、今後も約定通りの借り賃を支払えい続ければ良いのです。そして、契約上の賃貸借期間の残りの期間、つまり残り5年間は、予定どおり土地を賃借し、農地として利用し続けることができる、ということになります。

3:農業委員Aの要求は無視すればいいが…

つまり、Aさんの"要求"は無視すれば事足ります。

以上の結論からは、ご相談者さまの向こう5年間の土地賃借権(土地利用権)を維持するうえでは、どこかに苦情を申し入れたり、何らかの法的措置を取ったりすることは、必要ありませんし、これまでどおり契約に従って借り賃を支払い続けることで、賃貸借期間中は農地を賃借して、農業にご専念なされればよいということになります。

それでも、Aさんからの"要求"のプレッシャーが強く、不安が拭えないならば、まずは、貸し手の農地中間管理機構に対して、例えば次のような問い合わせを書面やメールで行い、その回答を書面やメールでしていただくようにお願いしてみてはいかがでしょうか?

4:貸し手の農地中間管理機構に連絡することもオススメです

問い合わせ内容は、以下の3点になります。

質問1:貸し手は賃貸借契約の解除または中途解約をする予定があるのか?
質問2:借り賃を増額する予定があるのか?
質問3:農業委員Aさんが「土地を返却してほしい」「今よりも高い賃料を払うなら貸し続ける」などと"要求"してきているが、これは農地中間管理機構の意向なのか?

おそらく農地中間管理機構からは、「賃貸借契約の解除や中途解約の予定はない」「借り賃の増額の予定もない」「Aさんの"要求"は農地中間管理機構の意向ではない」という趣旨の回答が得られるのではないかと予想されます。

このような正式な回答を書面やメールにより得られれば、前述した「Aさんの"要求"は法的な根拠がない」「ご相談者さまがAさんの"要求"に従う法的義務はない」という内容が正しいことが改めて確認できるので、よりいっそう安心して営農できるのではないでしょうか?

5:そもそも農業委員会とは?

それでも、Aさんに対する困惑や不安がなかなか拭えない場合はどうしたらよいか考えてみましょう。

そもそも農業委員会は、「農業委員会等に関する法律」に基いて、市町村に設置される行政機関です。その委員は、市町村長が議会の同意を得て任命します。

そして、市町村長は委員が職務上の義務に違反した場合や、委員たるに適しない非行があると認める場合などは、議会の同意を得て罷免することができます。

つまり、市町村長が委員の選任・罷免の権限を有しています。

これを踏まえたうえで、ご相談者さまが、「Aさんから法的根拠のない要望を受けた事実とその内容」と「そのような要望を受けたことにより困惑している事実」について、市町村の担当部局(農業委員会事務局)に率直に申し入れて、Aさんがこれ以上、法的根拠のない"要求"を繰り返すことがないように指導していただくことをご相談なさってはいかがでしょうか。

ご相談内容にもあるように、小さなコミュニティーでは、関係者間の不和を恐れて、周囲が「問題を大きくするな」「揉めるな」などとご相談者さまの行動を止めようとするかもしれません。

しかし、契約条件の確認や農地中間管理機構への問合せを通じて、ご相談者さまの賃貸借契約上の地位がAさんに脅かされる法的根拠のないことが確認できたうえで、なおかつ、残りの賃貸借期間中の農業の継続や、その期間経過後の経営の展望に関して特段の支障がないのであれば、市町村に相談なさることをためらう理由はないのではないでしょうか?

そして、いよいよ市町村に相談するなど積極的なアクションを取ろうとする段階においては、例えば、地元の弁護士さんに相談して、代理人として市町村への相談に同行してもらったり、法的根拠のない不当な"要求"をすることのないようにAさんに警告状を発出してもらったりするなどの対応を検討してみてもよいかもしれません。

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