愛媛県で温州みかんをはじめ、ニューサマーオレンジなど多品種の柑橘類を育てています。
こだわりは減農薬と、収穫前に防腐剤を使わないことです。
土づくりには両親のこだわりで、魚肥(かつおの荒かす)とカニ殻をメインに使っています。
カニ殻はこれまでは国産品を使っていましたが、現在ではベトナムやカナダ産のものを使用しています。
両親のこだわりで、かなり前からカニ殻を使っていますが、ここ数年はカニ殻を使用する農家さんが増えているので、漁獲量の減少などもあり、品薄気味になっているのです。
価格高騰の可能性を考えると、新しい資材を導入する必要があると考えています。
カニ殻に代わる資材には、どのようなものがあるでしょうか?
(愛媛県・石川さん/仮名・40代)
生田智昭
株式会社大地のいのち(サンビオティック)代表取締役
みかん栽培の目的別によって、選ぶ資材が変わります
長崎県で、土づくりから農産物の生産加工、商品開発、販売まで食の6次産業化を行っている「大地のいのち」の生田です。
弊社が長年独自に開発した農業資材「サンビオティック」は、有機原料や循環型資源などをメインに使っており、なかにはカニ殻を使ったボカシや肥料も取り扱っているので、編集部から回答を依頼されました。
柑橘類の栽培において、カニ殻に代わる資材についてのご質問ですね。
相談者さんのご指摘の通り、カニ殻だけでなく、今、多くの有機肥料の値段が高騰しております。それは化学肥料が高騰し、有機肥料に需要が移っているため、供給量に対して需要が強まったためと考えております。
特に、カニ殻の高騰は、カニの食べ放題やカニ加工品の需要が減少したため、輸入量自体が減少し、日本で生産されるカニ殻資材がかなり不足してしまったことも要因です。
そこで、本題のカニ殻に代わる資材をお探しということですね。
まず、相談者さんが何のためにカニ殻を柑橘栽培に使用されているのかを考えてみます。目的によって、代替できる資材が代わってくるからです。
私が考えるところ、カニ殻を柑橘類に使用する目的は、大きく3点になると思います。
1、窒素、リン酸、加里のバランスが良く、肥料成分を長く供給するために施用している。
2、カニ殻に含まれるカルシウムやミネラル分が供給され、それにより果実の味や品質が良くなることを期待している。
3、カニ殻に含まれるキチン質は、放線菌を増やす作用があり、放線菌は土作り(土壌団粒化)や病原菌や有害線虫を抑制するため、キチン質の供給剤として使用している。
上記以外にもあるとは思いますが、上記3点に絞って話を進めたいと思います。
まず1の場合は、単に肥料成分を他の資材で供給できれば良いですから、他の資材や肥料は代替手段がいくらでもあります。有機肥料が良いのであれば、魚の肥料も良いですし、油かすや、鶏の羽根を加工したフェザーミール、または発酵鶏糞などでも代用できます。
必要な成分量を計算し、施用量を検討して下さい。
ただし、柑橘栽培において、特に温州みかんの場合は、窒素の肥効期間には十分注意しなければ成りません。肥効が長いタイプの肥料は、6月の夏肥が、9~10月ごろ効いてしまうものもあり、みかんの味や品質を悪くする可能性があります。
夏肥については、特に肥効の短い1~2ヶ月でなくなってしまうように設計されることをお勧めします。
2の場合は、ミネラルの補給です。柑橘栽培において、重要なミネラル成分は、カルシウム、マグネシウムです。その他の微量要素も重要ですが、カルシウム(石灰)とマグネシウム(苦土)は特に重要です。
これは、苦土石灰やかき殻石灰だけでは、肥効が悪く、吸収に劣る場合がございます。
そのため、代替資材としては、牡蠣殻石灰をメインとしつつ、苦土肥料や液体肥料を使用するのがお勧めです。
牡蠣殻石灰は2~3月に、土壌pHの矯正を兼ねて施用し、夏肥では水溶性苦土、ク溶性苦土をバランス良く含む資材を施用すると良いです。
さらに、8月以降は、有機酸カルシウムなどの液体肥料を葉面散布すると、果実が締まり、味が良くなり、また腐敗が減少します。
有機酸カルシウムは、各肥料メーカーから市販されています。弊社でも、「本気Ca」(マジカル)という、有機酸カルシウム資材がございます。
市販の有機酸カルシウムでは、もっとも含有量が多く、またホウ素や酢酸を含む非常に優れたカルシウム資材です。このような有機酸カルシウムを8月中旬から、収穫時期にかけて1~2週間に1回葉面散布すると効果的です。
また、カルシウムやマグネシウムだけでなく、他の微量要素も重要な働きをします。
有機資材を好んで使う場合、「にがり」がオススメです。海水を濃縮してナトリウム成分を取った残りですが、地球上に存在するほぼすべての微量要素を含んでいます。しかも、海水由来ですから、安心であり自然です。
弊社で取り扱っている「本格にがり」も、柑橘栽培の生産者に非常に人気があります。これと酢酸を合わせて葉面散布を数回すると、果皮が固くなるので、収穫後の腐敗が減少します。
散布時期は、8月中旬から収穫時期にかけて、1~2週間おきを目安にしてください。
最後に3の目的に対する代替資材ですが、最も安価に入手できるのは、落ち葉や麦わら、または植物性の堆肥などを使用すると良いでしょう。
米ぬかや雑草のように柔らかい素材ではなく、落ち葉や麦わら、発酵済みの植物性原料を使った堆肥は、やや固いセルロースやリグニンを多く含んでおり、放線菌が好むエサとなります。
こういったものを、樹冠下に毎年施用することで柑橘樹の発根を促進し、樹勢を高め、生産期間を延ばすことにつながります。また果実の味や品質を向上させます。
2~3月に施用することが多いですが、窒素分をほとんど含んでいないもの、またはC/N比が30以上であれば、夏に施用することも問題ありません。
施用量は、10aあたり1~2t/年が目安で、できれば毎年施用することが望まれます。
なお、カニ殻の他にキチン質を多く含むものとしては、昆虫の抜け殻やエビ殻などもありますが、カニ殻以上に、入手しづらく、また高価であるため、植物資材をご提案しました。
3つの目的に沿って、代替資材や考え方をお伝えしました。身の回りに安く手に入る資材で、最高に美味しく、消費者に喜ばれる柑橘を作っていただきたいなと心より思います。