新潟県で20年ほど稲作をやっております。
農地面積は20haほど。
ここ数年、イノシシの泥浴びによる被害が急激に増えてきました。
大切に育ててきた稲が無残になぎ倒されているとガッカリさせられます。
どうしたものかと思っていたところ、先日、市の農業振興係が主催するイノシシ被害軽減のための研修会がありました。
研修会では、イノシシ被害には電気柵の設置が有効で、市から補助金が出ることになったことを知りました。
業者さんに設置を頼むとなると、それなりの金額になってしまいます。
そこで自力で電気柵を設置することを考えています。
調べてみると電気柵のキットなども販売されているようですが、できるだけ安い費用で設置したいです。
必要な部品を教えてください。
また、設置あたっての注意点も知りたいです。
冬場の扱いも気になっていて、一度設置したら、そのままでも大丈夫なのでしょうか?
うちは新潟ではありますが、豪雪地帯ではないので、さほど積もることはありません。
(新潟県・田村裕之さん/仮名・50代)
古谷益朗
野生生物研究所ネイチャーステーション
イノシシの侵入防止柵には電源や支柱に工夫を!雑草や土のスペース確保にも注意しましょう
イノシシの水稲被害を防ぐためには侵入防止柵の設置が確実な手段です。侵入防止柵には「物理柵」と「記憶柵(心理柵)」があります。
物理柵は、イノシシの能力を超える障害物で囲うものです。ワイヤーメッシュ(産業用に使われる鉄製の網)が使われることが一般的です。基本的に1m×2mのサイズを組み合わせて設置します。
ワイヤーメッシュは規格もさまざですが、イノシシの場合は目合い(ネットの編み目のサイズ)10cm、鉄線の太さ5mmのものを使います。
物理柵は管理が非常に楽です。少々の草が絡んでも問題ありませんので、隣が林縁部だったり、耕作放棄地などといった草管理が難しい場所や複数の農地をまたぐ広域柵などに利用されています。
デメリットは一度設置すると取り外しに手間がかかるところです。設置された農地は出入口以外から入れなくなります。
一方、記憶柵(心理柵)とは電気柵のことです。一度でも柵を触れば、イノシシは電気ショックによる痛みを記憶して近寄らなくなります。
電気柵は地上部から間隔を空けて電気線を弾状にはる段張り方式が一般的です。イノシシに対しては地上面から20センチメートルに一段目、40センチメートルに2段目の2段張りで十分な効果が期待できます。イノシシ対策で最も安価で簡易な方法です。
電気柵の設置に関する注意点は、低い位置の電気線まわりの雑草管理です。一段目が20cmと低いので、すぐに雑草による漏電が発生します。漏電してしまった電気柵はただの「ひも」です。
また、設置する外側に50cm以上の「土のスペース」が必要です。電気柵は地面がアースになって電気が抜けるため電気ショックが発生します。
そのため、コンクリートや砂利、側溝の蓋などのすぐ横では、電気が抜けずショックは発生しません。電気が抜けない電気柵はただの「ひも」です。
そして、24時間通電をしなければいけません。イノシシは夜行性ではありません。雨の日や人気のないときには昼間も活動します。電線が張ってあるときは絶対に電気を切ってはいけません。
このほかにも20cmの間隔を保つこと。斜面には設置しないこと。などがありますが、慣れてしまえば難しくはありません。しっかりとできれば効果は期待できる方法です。
電気柵の導入を考えた場合、水稲では設置期間が長くなるので電源装置はソーラータイプがいいと思います。以前は高価でしたが最近では手に入れやすい価格になってきています。
支柱などは設置する場所により必要本数が変わります。基本は2メートル間隔ですが、地面に高低差がある場合は地上面との間隔を合わせるために間隔は不規則になり本数も増えます。
このように侵入防止柵は現場を見て対応しなければなりません。地域の農業改良普及センターなどに相談してみてはいかがでしょうか。
最初の導入段階でしっかりと基本を覚えていただければイノシシに勝てると思います。