秋田県内の市の町中から少し離れた場所で、私と父で農家をしていました(今も農業は独身の私ひとりでやっています)。
母は既に亡くなっており、先日父が体調の問題で急死し、四十九日が終わりました。
正直、前からうすうす心配していたのですが、その心配が本当の事になり困っています。
私には、弟と妹がいます。ふたりとも都会で仕事をしています。
弟も妹も結婚して子どももふたりずついるようですが、どちらの家族も、こちらにめったに来ず疎遠な状態でした。
弟と妹から、父や私への連絡が来る事もここ5年くらいありませんでした。
さらに、葬儀にはこのご時世もあり、親族内での小さな葬儀をし、県内の親族は皆さん来ていただきましたが、弟家族・妹家族の出席はありませんでした。
その2人が、四十九日が終わった後、むちゃなことを言い始めました。
「遺産を法定相続分通りに3分の1ずつ分けろ、分けないと協議書にハンコを押さない」と電話で強く言ってきています。
弟と妹で、示し合わせているようです。
農家の世帯なら多いと思いますが、昔からの慣習で、長男が家を家を継ぐときは、家業や親戚付き合いなども全て負う代わりに、他の兄弟姉妹は、一定の金額を貰うという慣習があります。
生前、父は「わしになんかあったらハンコ代として100万円ずつ渡してやればいい、このへんではみんなそんな感じでやっとる」と言っていました。
しかし、それを弟・妹に話すと激怒し、「貰えるものは法律通りに貰うからな!!」「自分だけ大きい家をもらって、うちは都会で4人で狭いアパートに暮らしているのに!!」とふたりとも怒ってきました。
自宅・田んぼ・畑など相続財産の評価額は6,000万円近くになります。
しかし、我が家の現金資産は500万円程度です。
それ以外は自宅や田んぼ・畑・農機具・自動車などの、現金・預金以外の資産です。
弟・妹の言うように分けると、それぞれに2,000万円を渡さなければならないのではないかと思われ、そうすると家や土地を手放すしか方法がなくなります。
手元にある現金500万円は、働けばいいので渡しても構いませんが、それ以上を要求され、家や土地を守れないと、農業で食べていけなくなります。
どうすれば、家、土地、畑を守り、現金で2,000万円をよこせという無茶な要求を拒否することができるでしょうか。
(秋田県・金田さん/仮名・50代)
岩崎紗矢佳
弁護士
寄与分を主張し相談者の取得分を増やすことが考えられます。相続で揉めないために、生前の準備が大切です
相続人は相談者含め3人のみ、父親は遺言書を作成していない、という前提でお答えいたします。
残念ながら、弟妹の同意を得られない限り、「家・土地(田・畑)を守り、現金2000万円を支払わない」という方法は無いと考えます。
そこで、次善策として、相談者の取得分を少しでも多く(弟妹の取得分を少なく)するために、相談者が寄与分を主張することが考えられます。
寄与分とは、相続人同士の実質的な公平を図るために、法定相続分を調整する制度です。ある相続人が、亡くなった人の財産の維持や増加に役立った(寄与した)と認められる場合に、その分の金額を相続財産から優先して受け取ることができます。
裁判所は、寄与分を認めることに慎重なケースが多いです。
しかし、ご質問から、相談者は父親と二人で農業をやっており、それも、休日に手伝っていたという程度ではなく、「父親と一緒に中心的な役割を果たしていた」と推察します。そうであれば、寄与分が認められる可能性もあると考えます(大阪高等裁判所平成27年10月6日決定が参考になります)。
また、もし父親の生前であれば、次のような方法も考えられます。
1、相談者が父親から自宅や農地の生前贈与を受ける。
2、父親が自宅や農地を相談者に相続させるよう遺言書を作成する。
ただし、生前贈与(父親の死亡前10年間に行われたもの)や遺言書があったとしても、弟妹から「遺留分」(兄弟姉妹以外の相続人に認められる最低限の取り分)を主張された場合には、支払わなければなりません。
父親の生前に「遺留分の放棄」(民法1049条)や「遺留分に関する民法の特例」(経営承継円滑化法)を利用し、予め遺留分についての主張を制限することも考えられますが、将来相続人となる人の同意が必要なことや、手続きが煩雑であることから、注意が必要です。
農家の相続では、たとえ相続人間の争いが無いとしても、相続税の支払いのために農地を売らざるを得ないこともあります。相続に備え、少しずつでも、生前から現預金や金融資産などを蓄えておくことで比較的スムーズに相続手続きが進むと考えられます。