京都府で30年間米農家をしている者です。
毎年、収穫後にすぐ堆肥を撒くのですが、圃場が異なる場所に点々と散らばっているので、堆肥を散布するための経費がかさばるので大変です。
くわえて最近では、堆肥に何が含まれているのか、しっかり完熟しているのかどうかも重要視されるようになりました。
良質な堆肥を安定して手に入れることが難しいので、四苦八苦しています。
そこで、堆肥に代わる資材として「腐植酸資材」があることを知りました。JAでは「アヅミン®︎」という名前の製品で販売されています。
先にこの資材を使っている九条ネギ農家さんから話を聞くと、確かに根張り(成長)が良くなり、堆肥を使っていたときよりも土の物理性が改善されているとのことです。
1反あたり40kg撒くだけで、堆肥2トン施用したときと同じ効果が得られるということでしたが、堆肥と比べてどんなメリット、デメリットがあるのでしょうか?
(京都府・澤村さん/仮名・70代)
李 哲揆
データサイエンティスト
堆肥の代わりにはなりませんが、植物の根張りを良くする効果があります
腐植酸資材と堆肥は異なる施用効果を持つので、目的に応じて資材を選択することが重要です。
まず腐植酸とは何かについてお話します。
植物や動物の死骸は土壌微生物によって分解されます。分解の過程で生じる黒っぽい高分子の物質、これを腐植と呼びます。
つまり腐植は特定の物質を指すわけではなく、分解過程で生じたよくわからない黒いものの総称です。
そしてこのよくわからない腐植はその化学的性質(酸やアルカリへの溶けやすさ)によってフルボ酸、フミン酸、ヒューミンに分けられます。
このうち、フルボ酸とフミン酸を合わせて腐植酸と呼びます。
腐植酸はその化学的性質から肥料成分(陽イオン)をよく吸着するので、腐植の多い土は保肥能が高いと言えます。
この腐植酸ですが作物の栽培過程で減るので外から補う必要があります。
そこで利用されるのが腐植酸資材です。
腐植酸資材は地力増進法により正式な土壌改良資材として認められています。
この資材は、圃場への全面施用による保肥力の向上だけではなく、根の周りへの局所施用により根張りを良くするといったバイオスティミュラントとしての効果も報告されています。
バイオスティミュラントとはそれ自身が植物に作用し、良い効果をもたらす資材のことです。
一方、堆肥ですがこちらは根本的な土作りのために使います。
堆「肥」というぐらいなので、堆肥自体に含まれる肥料成分の供給が主な目的です。
それ以外にも堆肥の持つ有機物が団粒構造を発達させ、土が柔らかくなったり、水持ちを良くなること(土壌物理性の改善)や、堆肥を分解する微生物のが増えること(土壌生物性の改善)などが期待されます。もちろん堆肥にも多少(1〜2%程度)腐植が含まれているので保肥能も向上します。
しかし、堆肥に含まれる肥料成分が過剰にならないように適切に施用する必要があります。
すなわち圃場の保肥力の向上やバイオスティミュラントとしての効果を期待するのであれば腐植酸資材を、土壌物理性や生物性の改善といった地力の向上のためには堆肥を用いることが有効だと言えます。
目的に応じて資材を使うことが重要です。
デンカ株式会社 アグリプロダクツ部
デンカ株式会社
堆肥の完全代替にはなりませんが、併用することで作物の増収や品質向上がはかれます
1、まず、ご相談者さまから尋ねられた「(アヅミン®を)1反当り40㎏撒くだけで、堆肥を1t施用したときと同じ」という意味合いについて、ご説明します。
アヅミン®には腐植酸が約50%含まれています。このためアヅミン®を40kg施用すると約20kgの腐植酸を供給することができます。
一般的な堆肥には平均1.8%程度の腐植酸が含まれているとされていますので、堆肥1t中の腐植酸量はこれも約20kgとなります。
したがって、腐植酸の補給量を比較すれば、堆肥1tがアヅミン®40㎏と概ね同じということになります。
2、次に水稲作にアヅミン®を施用した場合、堆肥と比べてどんなメリット、デメリットがあるかをご説明します。
メリットは以下の3つです。
(1)省力化:1反あたりの施用量が異なりますから、作業効率がアップします。
ネギ農家さまのお話のとおり、アヅミン®の腐植酸は、根張りをよくするほか、水稲では根の酸化力(水田という酸素の少ない土壌条件でも、根腐れを起こしにくい根の健全性を示す指標)を高めることが報告されています。
アヅミンの施用により、根の活力が向上し養水分の吸収が旺盛となるので、登熟歩合を高め、高温障害の軽減にも効果があります。
(2)生育障害の低減:春先に施した堆肥が未熟であった場合、水稲作付け後、地温の上昇に伴って土壌中で有機物の分解が始まり、ワキの発生(土壌が還元状態になって、根に有毒ガスが発生)や、根傷みなどの生育障害を起こす可能性があるのに対し、アヅミンではこの心配がありません。
(3)適正な窒素量:堆肥のなかでも家畜の糞に由来するものは、完熟させていないと、窒素成分の過剰により、稲の徒長や無効分げつ(穂をつけない茎)の発生などの不具合の原因となる可能性があります。アヅミン®ではこの心配がありません。
次に、堆肥に比べたアヅミン®のデメリットについてお話しします。
(1)ケイ酸分不足:堆肥の原料の種類にもよりますが、ケイ酸分を多く含む稲わらや麦わらを原料とする堆肥を施用すると、ケイ酸成分の補給が可能です。一方アヅミン®によるケイ酸分の補給量は堆肥には及びません。
(2)苦土以外の施肥効果がない:完熟した堆肥であれば、アヅミン®のメリット(2)と(3)で触れたトラブルを起こすこともなく、土壌の窒素成分を増やし、リン酸やカリなどの養分も補給できますが、アヅミン®には苦土以外の肥料効果はありません。
(3)水田の場合、土壌物理性の改善効果が低い可能性:堆肥に含まれる稲わらや枯れ草などの粗大有機物には、土をふわふわにして(=膨軟性)物理性を高めたり、保水性や生物性の改善(微生物の増加)効果が期待されます。
一方、腐植酸の場合、ネギ畑などでは土壌の団粒構造が改善される効果が期待できますが、水田では、代かきによって土壌が単粒構造となるため、それほど大きな効果にはつながりません。
以上のように、完熟たい肥にはアヅミン®にはないメリットもあるので、併用できると最も好ましいのですが、ご相談者さまには良質な堆肥の入手が困難だという事情があるようです。ただ今回は水田のお話であることから少し見方を変えて、稲わらという貴重な粗大有機物資源をお持ちと考えることは可能でしょうか。
困難な状況下であっても、少しでも完熟たい肥の施用と同等の効果を狙うため、収穫後の稲わらを秋に石灰窒素20kg/10aと共にすき込んだうえで、春になったらアヅミン®︎を施用することで、腐植酸の効果を補っていただいてはいかがでしょうか?