山形で米と野菜を作っている農家です。
何十年と仕事をしていると、経験と勘が自分の財産とも言えるでしょうが、それでも毎年新たな気付きや発見もあり、ようやく農業が分かってきたかなというところです。
去年依頼があり、新規就農希望者のための研修先として、研修生を受け入れるようになりました。
はたから見れば、ベテラン農家ということになるのでしょうが、いざ人に教えるとなると難しいものですね。
自分にとっては当たり前のことが、ひとさまにとってはそうでないということに戸惑いながら取り組んでいます。
研修生からは「マニュアルはないのですか?」と相談されました。
確かに、即戦力を育てることが大事なのに「見て覚えろ」では何年もかかります。
そこで今は、経験上必要なことと、場面場面で思いついたことはメモに残すようにしました。
このメモをどのようにまとめたら良いでしょうか。
ほかにも、人材育成のためにできることはありますか?
(山形県・伊藤さん/仮名・60代)
藤野直人
株式会社クロスエイジ 代表取締役
訓練と教育は別物です。マニュアルと会議を人材育成に活用しましょう
任せたいことを最低限できるように教えるのが訓練です。重要なのは、訓練期間を決めること。数日から数週間、あるいは数カ月という場合もあるでしょう。
いずれにしろ経営者が期間を定め、その間はとにかく訓練を受ける人の知識を増やし、仕事を教えながら「できることを増やす」ことに専念します。教育は訓練のあとです。
昔から農業の現場では、マニュアルの必要性をめぐって賛否両論があります。その必要性は、教育対象によって状況が変わります。
例えば、短期のパートさんであれば、数日あるいは数回教えれば十分かもしれません。その一方で、正社員の教育や農場長の育成が目的なら、マニュアルは必要です。
ですが、組織が大きくなり、業務内容が複雑になると、マニュアルと実際の業務との間にギャップが生じることもあります。
この場合、問題があるのは現場の仕事方法か、マニュアルかを見極める必要が出てきます。これが、業務の改善につながります。
農業の生産現場におけるマニュアルは、一度で完成しません。マニュアル作成(Plan)、実行(Do)、定期的なチェック(Check)、マニュアルの改善(Action)といったサイクルで、継続的にPDCAを回していきます。その結果、マニュアルが人材育成に役立つようになるのです。
最後に、「会議の運用」をおすすめします。会議の場を通じて、今後の行動変化や改善に結びつけようという提案です。
ただし、会議を有意義なものになるには条件があります。目標とする数値計画があること、役割分担や数値責任が明確であること、進捗状況をアプリなどで見える化・共有することです。
会議でやることは3つ。目標に対する「不足」を明確にして報告すること、「不足」に対しどう行動するか準備して参加すること、未達成でもアクションに問題なければ次の行動に集中することです。
社長や上長にとって、会議は人材育成のチャンスです。ただ報告を聞くだけ、連絡事項や認識の共有をするだけなら、LINEなどのアプリやツールでもできます。会議が人材育成の場となるよう、うまくデザインしてください。