ほうれん草と春菊を水耕栽培しています。
毎日、ほぼ決まった量の収穫をしながら、並行して次の作付けに向けた準備や種まき、生育の管理といった作業があり、常に一定人数の確保が欠かせません。
最近はバイトの確保に四苦八苦しているのが現状で、障がい者雇用も考えています。
毎日決まった作業が多いので、障がい者の方々が取り組むにはやりやすいと思います。
とはいえ、たとえば収穫してコンテナに入れたのち、そのコンテナを作業場まで運んでからパック詰めする作業まで、すべての作業を通常のアルバイトさんと同じように任せるのは難しいのではないかと思ってます。
障がい者の方々を雇い入れるのに、あまり仕事の効率を求めてはいけないと思っていますが、それでもみんなが気持ちよく仕事ができ、お互いにやりがいやメリットが感じられるようにしたいです。
一連の作業を障がい者の方でも取り組みやすいように、どのように仕分けて任せるのがよいのでしょうか?
(山梨県・山本亨さん/仮名・40代)
伊藤文弥
NPO法人つくばアグリチャレンジ代表理事
障がい者に仕事を振り分けるより前に、まずは「雇用の方法」を考えましょう
ご相談内容からすると、障がいのある人たちが取り組みやすいように思える仕事が年間を通じて安定してあり、アルバイトも雇用していらっしゃるという状況だということを考えると、家族経営ではなく、比較的大きな規模感で農業生産されている方だと見受けられます。
今回の回答に移る前に、まず条件を考えてみましょう。障がいのある人たちを雇用する場合、
①ご相談者さん本人が自分達で採用するのか?
それとも
②僕らのような福祉施設から人材を派遣してもらうか?によって、状況は大きく変わります。
必要とする障がい者の人数が、1人とか2人のような少人数である場合は、①のご自身で採用することもあり得ます。
しかし一方で、ある程度まとまった人数で作業に来てほしいとか、障がいがある人たちに来てもらった時に、どうコミュニケーションを取ればいいのか不安がある場合は、②の福祉施設に来てもらう方法を選択する方が良いと思います。
福祉施設からの派遣を頼むのであれば、障がいがある人たちとのコミュニケーションは、福祉施設側の職員が担っていくことになるので、今回の「どういうふうに作業のやり方を教えればいいのか?」という相談については、問題が少ないと思います。
従ってここではまず、①の自分たちで障がい者を雇用することを前提に、作業の仕分けをどうすべきか検討していきたいと思います。
とはいえ、障がいのある人たちは、ひとくくりにはできませんから難しいと思います。
一般的に障がいのある人たちは、同じ作業を繰り返すルーティンワークの方が没頭できるため、適していると考えられている傾向がありますが、それも障がいの種別によります。
私たちと同じように、障がいのある人のなかにも同じ仕事に没頭しやすい人もいれば、飽きっぽい人もいるなど人それぞれです。
僕が代表を務めるNPOつくばアグリチャレンジごきげんファームでは現在、100人くらいの障がいがある人たちと一緒に農業をやっていますが、Aさんはこの作業が得意だけれど、別の作業は得意ではないというふうに、人によって向き不向き、合う合わないがあるので、作業の仕分け方についても一概には言えないのが現実です。
従って、作業の仕分け方を考えるより前に、まずはどういう人を採用するか?というところからじっくり見極めることが重要になってきます。
採用時の面接で、この応募者であれば、スタッフとして一緒に働けると、雇用する側が思える人をちゃんと採用できるかどうか?が重要です。
採用にあたっては、障がいのある人たちと普段から関わっていないとわからないこともたくさんあります。
特に精神疾患のある人たちなどは、精神状態にどういう波があるか?とか、どういうことに反応してしまうかについても、雇用当初はわからないと思います。
そこで、障がい者雇用に知見がある福祉施設や公的機関、ジョブコーチ、ハローワークなどを通して、アドバイスをもらいながら対応していったり、事前に何日か作業体験してもらって、お互いに様子をよく見ることで、正式に採用するという段階を経るのがミスマッチを避けるうえでも大事だと思います。
「障がい者」と一言で言っても、個々の人によって障がいの種類や度合いなど幅が広いので、最初に時間をかけて丁寧にまわりの人たちの意見も聞きながら、障がいがある人の採用を進めていくことが、一番大事だと思います。
次にどんな人を採用するか?についてですが、これも職場環境の違いによって、知的障がいのある人の方がいいのか?精神疾患のある人なのか、身体障がいのある人の方がいいのか、変わってきます。
きめ細かな労働環境が整っていないなかで、そういうことが気になりやすい人もいれば、そうでない人もいます。
例えば、就業規則が整っているかどうか、就業時間が規約通りなのか?とか、一緒に働く同僚がどんな人たちなのかなど、さまざまな要因によって、相談者さんの環境で働く条件に適した人も変わってくると思います。
実際問題として、採用はしてみたものの、職場環境や人間関係によって合う合わないは大きい要素を占めると思います。
それがクリアできた時に初めて、仕事の割り振りや教え方、コミュニケーションの取り方を考えるべきではないでしょうか?
最後にまとめますと、障がい者を雇用するうえで、福祉施設からの派遣ではなく、自分で採用するのか?を選んだ場合に、最も重要なのは、どのようなプロセスで採用していくかが最重要課題です。
通常の健常者をアルバイトで採用するような場合に比べて、3倍くらいの時間をかけるようなつもりで、丁寧に見極めることで、後になって余計な時間をかける必要がなくなるんじゃないかなと思います。
さらに付け加えますと、障がいのある人たちと一緒に働くことがイメージしづらいのではないかなと思いました。
そこで、僕がご提案したいのは、まずは障がいのある人たちと関わってみることをおすすめします。
例えば、僕のような立場の人から話を聞いたり、福祉施設に見学に行ったりして障がいのある人たちと交流してみたり、話しをしてみたりするといいいのではないでしょうか?
福祉施設への見学を通じて、先述したように福祉施設から派遣してもらったり、自分たちで採用するかどうか方針を決めていただくのがお勧めです。
いざ採用すると決定された場合は、補助金制度なども利用できますが、その場合は事務的な手続きが必要ですから、3、4人採用するような場合は、煩雑な事務作業も見合うことになりますが、1人とか2人のような少人数であれば、申請に手間暇がかかるばかりで補助金制度を利用する旨味も少ないと思います。
まずは「どのように雇用するか?」「人数」「仕事量」に応じて、「自分たちで雇用するか」「福祉施設を利用するか」を考えてください。