群馬県の高崎市内で、10年ほど前からハウス8棟を使用していろいろな品種のいちごを栽培しております。
最近、うちのハウスのすぐ近所に、ソーラーパネルを屋根に付けたハウスがたくさんできて気になっています。
昼休みに外でお弁当を食べていると、そのハウスの主らしき男性がわざわざ出てきて「うちのハウスの暖房費用は、太陽光発電で大部分をまかなえているよ」と自慢してくるのです。
しかし、それほど仲が良いわけではないので、詳しくは教えてくれません。
このあたりは田舎なので都市ガスは通っていませんから、寒い時期にはハウス栽培もプロパンガスか灯油を使って暖房することが多く、燃料代はそれなりにかかります。
それをまかなえると聞くと、正直、羨ましく感じてしまいます。
太陽光発電は国も推奨しているようですし、メリットが大きいならうちも真似したいので、ぜひメリット・デメリットを教えてください!
(群馬県・深津さん/仮名・40代)
生津賢也
一般社団法人ソーラーシェアリング協会
太陽光発電には鉄骨製のハウスが必要。隣接地で発電した電気をハウスで使用しては?
この類の質問はよく受けますが、相談をされた農家さんが使用されているハウスの構造上の強度や、必要とする電力量が何キロワットであるかといったことがわからないと、コスト的なメリットをお伝えすることは困難です。ですからここでは、一般的な話にとどめます。
まず、ハウスの構造についてですが、屋根に太陽光発電パネルを載せるためには、強度計算に基づいた耐久性の高い鉄骨製の構造が条件です。
私どもソーラーシェアリング協会でも、屋根の上の太陽光パネルで発電して、温度調節や自動灌水システムを稼働させる環境制御型ハウスを運用していますが、このハウスの躯体(くたい)は基準強度をクリアした鉄骨製の骨組みで作られています。
ご存じのとおり、太陽光発電は太陽が出ていないと発電できないため、大容量の高価な蓄電池を導入していないのであれば、冬の夜間は、ハウス内を加温するエネルギーを他でまかなう必要があります。従って「太陽光発電だけで暖房代をまかなえる」と自慢しているご近所さんは、かなり誇張しているのではないでしょうか?
ハウス内で栽培する作物のチョイスも重要です。相談者さんはいちご農家ということですが、栽培にはたくさんの光が必要ですから、遮光率をほどほどに絞らなければなりません。その場合、屋根の上の太陽光発電パネルだけでは環境制御に必要な発電量が不足する可能性が大きいでしょう。
どれくらい太陽の光を必要とするかは、作物によって異なります。例えばキノコ類は光合成しないので、太陽光はほとんど必要ありません。一方でジャガイモや稲、小麦などの作物は、遮光率30〜40%程度が適正とされています。
参考までに、2021年現在の再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)だと、売電価格12円(低圧)であれば、1000㎡の農地において、40%程度の遮光率でソーラーシェアリングを展開した場合、年間の売電収入は約100万円程度にとどまります。
例えば、これに農園でブルーベリーを養液栽培して、その年間収入約300万円だと試算すると、1000㎡の土地で年間約400万円の収入を見込むことが可能になります。
いちごが最も高く売れるのは夏場ですから、我々のクライアントにもLEDを光源にして植物工場のような完全密閉型のハウスで栽培している方がいます。
しかしご相談者さんの場合であれば、既存のハウスと隣接した土地に太陽光発電パネルを設置して、そこで発電したエネルギーをハウス内の燃料代にあてて、太陽光パネルの下ではブルーベリーを栽培することでベリー&ベリーの生産体制を構築するというのもひとつの手かと思われます。
東日本大震災以降、我が国は再生可能エネルギーを推進してきましたが、今後も固定価格買取り制度におけるFIT単価は下がり続け、それに伴って売電収入の利回りも悪くなっていくでしょう。
しかしソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)はあくまでも「農業」がメインであり、売電利回りを追求するビジネスモデルとは方向性が異なります。
そのため、地面に立てた架台にソーラーパネルを配置する(野立て)タイプの太陽光発電の感覚で、ソーラーシェアリングビジネスに手を出した業者さんが苦戦するケースも珍しくないです。
これからのソーラーシェアリングは、地域で必要なエネルギー及び食料を地域全体で生産し消費していくといった、環境循環型社会の構築に大きく貢献していくものになるはずです。