当農園ではとうもろこしを育てていますが、害虫防除にかなり苦慮しています。
何か改善する方法はないのかとインターネットで調べてみたところ、海外では害虫に強く、除草剤散布の手間を減らせる「遺伝子組み換えとうもろこし」が栽培されていると知りました。
しかも、その作付面積は年々増えているそうです。
日本の農業は、海外の数年後を追い掛けているとテレビで見たことがあります。
となると今後は日本でも、とうもろこしをはじめとした遺伝子組み換え作物が、普及していくのでしょうか?
私は北関東の山間で兼業農家をしているのですが、私たちのような高齢者はともかく、まだ幼い孫の世代の農業はどうなってしまうのか、気になっています。
(群馬県・須永さん/仮名・60代)
小島正美
食生活ジャーナリスト
今後も日本国内では作られないと思いますが、挑戦する価値はあります
遺伝子組み換え作物は、すでにアメリカやカナダ、ブラジル、インド、スペインなどで普及しています。主な作物は大豆、トウモロコシ、ナタネ、綿の4作物で、そのうちトウモロコシは大半が家畜飼料向けのものになっています。
遺伝子組み換え作物の主な形質は、
1、特定の除草剤を散布すると雑草だけが枯れて、作物自体は枯れない(除草剤耐性を持っている)。
2、葉や茎をかじる害虫を、葉や茎の細胞に組み込んだ「Btタンパク(有機農業でも使用する生物農薬)」で殺す(害虫抵抗性を持っている)。
3、干ばつに強い。
という3つの特徴があります。
トウモロコシの害虫は主にアワノメイガです。私はこれまでにアメリカ、フィリピン、スペインで害虫抵抗性(特定の害虫の被害を受けない性質)のトウモロコシ畑を取材しましたが、いずれも「殺虫剤を使わなくても栽培できるので、農薬の使用回数や労力が大きく減るし、収量も増えた」と、遺伝子組み換えによる効果を実感していました。
日本でも同様の効果があることは報告されていますが、残念ながらまだ国内で遺伝子組み換え作物を栽培している農家はゼロです。
日本で遺伝子組み換え作物の栽培が法律で禁止されているわけではなく、安全性も確認されていますので、誰でも栽培することは可能です。ただし、北海道や新潟など条例で実質的に栽培を不可能にしている自治体もあります。
また、どの農家も遺伝子組み換え作物の種子を購入して栽培することは可能ですが、おそらく、種子を生産している外資系企業(バイエル、コルテバ、シンジェンタ、BASF)は売ってくれないでしょう。
なぜなら、彼らには利益がほとんど出ないことがひとつ。さらに、反対運動が起こってしまうと、種子を生産する企業側の不利益につながってしまうことが考えられるからです。
さらに、遺伝子組み換え作物と農薬をセットで使う場合、日本の農薬メーカーは、数億円をかけて日本の農薬取締法に基づく新たな適用申請をしなければなりません。面倒なうえに費用もかさむ申請を、メーカーはわざわざしないでしょう。
そのため、日本では「農家が遺伝子組み換え作物を栽培したくてもできない」という状態が今後も長く続くと見ています。とはいえ、何事も挑戦して初めて分かることもありますから、たった1人の農家であっても「栽培したい」と望むなら、組み換え種子を売ってくれるかどうかをメーカーに聞いてみる価値はあると思います。