パン用の米粉に適した稲の品種を教えてください

YUIME Japan編集部 / 2023.05.22

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10年ほど前に米粉がブームになった頃から、主食用に栽培するコシヒカリを、くず米も含めて米粉に加工して直売所に出荷してきました。

ブームが過ぎた後も、止めずに続けています。

ところが、ここにきて小麦粉の値上がりや米粉製品の浸透もあり、米粉の売り行きがまた伸びてきています。

家庭でパンを作れる「ホームベーカリー」のレシピにも、米粉パンがメニューに登録されていることが一般的になったので、自宅で気軽に米粉パンが焼けるようになったのも追い風になっているのではないかと思います。

私はコシヒカリ派で、パンに焼いた時に甘味があっておいしいと思っていますが、最近はグルテンフリーのパンを焼きたい人も増えてきているので、グルテンを使わずにふっくら焼ける米粉に関する問い合わせを受けることがあります。

パンに向いた米粉用の専用品種もあると聞きますが、長野のような高冷地で栽培するとしたらどのような品種がよいでしょうか？専門家の先生に教えていただければ幸いです。

（長野県・平林隆子さん/仮名・50代）

米粉パン用に「笑みたわわ」や「ミズホチカラ」といった品種が誕生しています

2022年、ある地域で県の普及機関や食品関係の専門家の方々と一緒に玄米などを使った米粉パンの開発にチャレンジしました。マーケティングの視点からみると、ちょっとクセがあっても、コアなファンがつく個性豊かなパン作りが面白いと思っています。

ある調査では米粉パンを食べたことがあると答えた人は65％にのぼるという結果がでていることからも、米粉パンの認知度はかなり高くなってきているようです。

その反面、米粉パンを日常的に食べている割合はまだまだ少ないのが現実です。パンに「ふっくら」という食感を求める消費者が多いことも大きな理由と考えられます。

そもそも、パンが膨らむのは、酵母（イースト）によりパン生地に含まれている糖が発酵し、炭酸ガスが発生するからです。この炭酸ガスをタンパク質のグルテンが包み込んで、外に逃がさないようにすることで、パン生地が膨張してふっくらと焼けます。

米にもタンパク質は存在しますが、グルテンのような性質は持っていません。グルテンが無くても炭酸ガスを保持できるような生地であるためには、以下の3つの要因が大きく影響すると言われています。

1つめは、お米に含まれるデンプンの一種であるアミロース含有率です。アミロース含有率15％～25％前後のお米が製パンに適していて、これより低いとパンがふくらまず、これより高すぎるとふくらみが増す反面、パサつきや硬さが増してくるので、好みが分かれるところです。

また2つめに、米粒の硬度や製粉方法が関わってきます。製粉時間などが原因で、米粉のデンプンに損傷の割合が多いと、吸水しすぎてしまいます。
吸水率が高いパンは、焼いたときにしっかり硬くならずにへこむ「腰折れ状態」になってしまいます。製パンに適しているのは損傷デンプン率10％未満、できれば5％以下と言われています。

3つめは米粉の細かさです。粉の粒が細かいほどパンはふくらみますが、同じくらい粒が細かい米粉で比較した場合、前述したデンプンの損傷度が低い方がパンがふくらむようです。粒を細かくするため長時間製粉すると損傷が多くなり、パンがふくらまないという結果もあるため、注意が必要です。

現在、米粉用水稲品種として、「ミズホチカラ」のほか、「笑みたわわ」等の新品種が誕生しています。

「笑みたわわ」のアミロース含有率は21.3%，製粉時の損傷デンプン度は1.7%、米粉粒径が小さいこと等から製パンに適している品種と言えるでしょう。

ただし、アミロース含量の範囲は、コシヒカリ等のうるち米品種でも適合していることを考えると、ふっくらさせるための工夫の余地はまだまだ残されています。

また消費者の健康志向に、よりマッチするためならば、玄米米粉の使用や米麹での発酵による製パンも考えられます。いろいろな試験研究に目を通して原理原則を知り、自分なりに試験を重ねていくと、米粉パンの魅力はまだまだ引き出せます。